九州大学は、胸部X線動態撮影を用いて、簡便かつ低被ばく線量で肺塞栓症を診断するシステムを開発し、慢性血栓塞栓性肺高血圧症を高精度に検出できることを明らかにした。
九州大学は2022年11月7日、胸部X線動態撮影を用いて、簡便かつ低被ばく線量で肺塞栓症を診断するシステムを開発し、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)を高精度で検出できることを発表した。コニカミノルタとの共同研究による成果だ。
胸部X線動態撮影は、患者が7〜10秒間息を止めている間に、胸部X線画像を連続撮影する。造影剤や放射性核種を使用せず、通常の単純X線撮影と同様の装置を利用して、1秒間に15フレーム程度の連続X線画像を取得する。
研究グループでは、連続X線画像を用いて、肺内のX線透過性の経時的変化から肺塞栓症を示唆する血流分布異常を評価し、肺塞栓症を診断するシステムを開発した。肺塞栓症の診断には、血流分布異常の評価に加え、連続X線画像または同時に撮影した単純X線画像の肺野における異常所見も組み合わせて判断する。
同システムの有用性を検証するため、肺高血圧症患者50人のデータを検証。放射線科専門医による読影では、感度97%、特異度86%、診断精度92%の高い診断能が示された。従来の肺換気、血流シンチグラフィとほぼ同等の結果が得られたことで、同システムがCTEPHを高精度に検出する、簡便かつ低被ばくな医療機器となる可能性が示された。
なお、同システムにおける被ばく量は、国際原子力機関の定める胸部X線写真正面像および側面像の基準より低く、肺換気、血流シンチグラフィの約10分の1に抑えられる。
CTEPHは、肺動脈内の慢性的な血栓で生じた塞栓により、肺の血流が広範囲に障害されて肺高血圧症が起こる疾患だ。治療で予後が大きく改善するため、早期発見が重要になる。従来の肺換気、血流シンチグラフィは、大型の装置で高被ばく量などの課題があり、検査数は限られていた。
今後、同システムの検出能を評価する医師主導の治験を予定しており、有用性がより明らかになれば、CTEPHの早期検出が可能になるとしている。将来的には、AI(人工知能)などを用いて、放射線科専門医以外でも判断可能なシステムの確立を目指す。
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