カーボンニュートラルへの挑戦

一歩誤れば“最悪倒産”も、脱炭素に必要なのは20年後を見据えた組織のかじ取り製造業×脱炭素 インタビュー(1/2 ページ)

サプライチェーン全体のCO2排出量をゼロ化には、一部の部署だけではなく、社内の幅広い部署から協力を得ることが必須だ。このための仕組みづくりや組織づくりは国内製造業でどのように進んでいるのだろうか。ゼロボード 代表取締役に現状と課題を尋ねた。

» 2022年11月24日 08時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 世界全体で脱炭素の流れが進む中、製造業各社がカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを加速させるため、「サステナビリティ推進室」「ESG推進室」のような専門組織を立ち上げたという事例を多く耳にするようになった。CO2排出量のゼロ化という巨大な課題に立ち向かうためには、従来のCSR活動の枠組みにとどまらない抜本的な環境対策が求められる。こうした対策をけん引するチームの設置は、確かに今後必須になっていくかもしれない。

 だが当然ながら、こうした専門部署やチームを立ち上げるだけで満足してはならないだろう。GHG(温室効果ガス)プロトコルではスコープ3として、自社オフィスや工場だけでなく、サプライチェーン全体をCO2排出量の算定対象としている。これらの排出量のゼロ化は、社内の一部が奮闘するだけでは達成できない。経理部や総務部、営業部など社内の部署全てを巻き込んだ取り組みが求められる。

 こうした社内全体を巻き込むための仕組みづくりは、国内製造業全体で現在どのように進んでいるのか。「脱炭素のための組織づくり」に詳しいゼロボード 代表取締役の渡慶次道隆氏に、現状と課題を尋ねた。


 ゼロボードはGHG排出量の算定、可視化を行うクラウドプラットフォーム「zeroboard」を展開する企業だ。同サービスの導入企業数は2022年11月現在2000社を超える。顧客からはサービス導入や定着化に関する「人的支援などが評価されている」(ゼロボード担当者)という。

「CSR活動」の時代はもう終わり

MONOist 国内製造業の脱炭素に関する取り組みをどのように評価しますか。

渡慶次道隆氏(以下、渡慶次氏) 一口に製造業と言っても、脱炭素を推進する主体や、取り組みへの積極性などで状況に違いがある。例えば、サステナビリティ推進部門はあるものの、社内で影響力を及ぼし切れていない企業もある。反対に、自社全体を巻き込む動きができている企業ももちろん存在する。

ゼロボードの渡慶次道隆氏 出所:ゼロボード

 少なくとも製造業全体でいえることは、環境負荷低減の取り組みを「CSR活動」として捉える時代はもう終わった、ということだ。環境対策は経営戦略の中で考えられるべきだ。従来のCSR部門の主要機能を経営企画室や「サステナビリティ推進室」などに移したという企業も少なくない。

 こうした組織活動の成否は、関係部署をいかに巻き込んでいけるかにかかっている。GHGプロトコルにおけるスコープ3の可視化に必要なデータはさまざまな部署に分散している。これらのデータは、サステナビリティ推進室以外の部署も取り組みの意義を理解していないとなかなか集まらない。

 逆にサステナビリティ推進が企業価値向上につながると理解している企業では、各部署の担当者がデータを自主的に報告し、社内全体での排出量算定を月1回行う仕組みを作っていたりする。さらに当社のような排出量の見える化クラウドサービスを活用していれば、データを統合する手間も少なくて済む。

「DXよりも優先度高い」脱炭素

MONOist 社内の巻き込みという話だと、DXの場合は社長直下に「DX推進室」を置いて組織横断的にプロジェクトを推進するケースがあります。脱炭素でも同様の動きを取る企業もありますが、必要でしょうか。

渡慶次氏 そう思う。社長直下でサステナブル推進委員会を設けている企業は取り組みの動きが早い。

 さらに、脱炭素はDXよりも優先順位が高いと個人的には思う。DXの遅れは労働生産性が非効率なまま温存される、といった話でまだ済む。しかしサステナビリティ戦略は、グローバルな情勢を鑑みると、一歩間違えれば最悪倒産の危険性すらある。経営マターと捉えて真剣に考えなければならない。

MONOist 社内の関係部署を巻き込んでいく上で、大切なことは何でしょうか。

渡慶次氏 まず、脱炭素の取り組みを社内の活動評価基準にいかに落とし込むかがポイントになる。CO2削減への貢献度合いを工場などの拠点や人材ごとに定量/定性評価するといった仕組みづくりが考えられる。

 もう1つが脱炭素の重要性についての社内理解を広げることだ。社内勉強会を開催するなどの啓蒙(けいもう)活動が必要になる。もちろん、勉強会の中で脱炭素を推進することへの疑問や反発は当然出てくるが、それを解消するのが勉強会の目的でもある。脱炭素の取り組みが企業価値向上に寄与することを伝えなければならない。

MONOist 既存の業務改革も必要になるかと思います。

渡慶次氏 各部署に対して算定システムに情報入力を求めるような場合、新たな業務フローを作らなければならない。今までデータを取得していない、あってもアナログデータしかない、集計のフォーマットが社内全体で統一されていないという企業の場合は、DXも必要だ。

 ただ全てを一気に変えれば良いというものではない。Excelベースのシステムを現場が合理的に使えているのであれば、CSVファイルをベースとした算定システムを考えるべきだと思う。

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