イプシロン6号機は、もともと強化型の最終号機であったため、同型機の打ち上げはもうない。そういう意味では、今後の強化型への直接的な影響は考えなくてよいのだが、類似した技術を使う他のロケット、つまり現在運用中のH-IIAや、開発中のH3、イプシロンSなどへの影響については、慎重に見ていく必要がある。
このうち、H-IIAについては、第2段RCSで同じようにパイロ弁が使われているが、イプシロンとはメーカーが異なることが分かっている。まだパイロ弁が原因と特定されたわけではないものの、今のところ影響はほとんどないと考えられる。
後継となるイプシロンSは、第2段にあまり大きな変更はなく、同型のパイロ弁をそのまま使う方針だったが、まだ基本設計フェーズの段階であるため、時間的な余裕が十分ある。それよりも喫緊の問題は、初号機の打ち上げが間近に迫ったH3への影響があるのかどうか、ということだ。
H3も第2段にRCSを搭載しており、イプシロンとRCSメーカーは異なるものの、パイロ弁は、同じメーカーの別製品が使われていることが分かった。今後の調査結果に影響を受けるところではあるが、引き続き、影響の有無の確認を進めるという。打ち上げまでの時間的な余裕がなく、やや気掛かりなところだ。
イプシロンSについては、技術的な影響よりも、ビジネス的な影響の方が大きいかもしれない。イプシロンSは今後、打ち上げ事業を民間に移管する予定。今回は、イプシロンとしては初めて商業衛星を搭載しており、今後の需要拡大が期待される小型衛星の打ち上げ市場に対し、本格参入に向けた試金石となるはずだった。
もちろん失敗はしない方がよいのだが、それにしてもタイミングとしては最悪である。ただ、本当に重要になってくるのは、これからの対応だろう。
もし今回の失敗の原因が、簡単なミスや技術力の低下などではなく、合理的に納得できるものであることが判明し、その上でしっかりと対策を打ち立てることができれば、悪影響は最小に抑えることができるだろう。イプシロンの顧客となる世界の衛星事業者は、そこを見ているはずだ。
大塚 実(おおつか みのる)
PC、ロボット、宇宙開発、VR/メタバースなど技術系の分野を幅広く執筆しているテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。三度の飯よりプログラミングが好きな体質のため、隙あらばエンジニア仕事も引き受けている。宇宙作家クラブに所属。Twitterアカウントは@ots_min
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.