以上が、現時点で分かっていることである。要因として、まだ幾つも可能性が残っており、特定するには今後の調査結果を待つ必要があるだろうが、ダイアフラム以外は全てパイロ弁に関連しており、これだけ見れば、パイロ弁のどこかで何らかの問題が起きた可能性が高まったといえるだろう。
パイロ弁は正常に動作したのか、それともしなかったのか。実際の機体を調べればかなりの情報を得られるはずであるが、フィリピン東方沖の深海に沈んでおり、引き上げは困難。今後、どうしても必要であれば引き上げる可能性もあるものの、かなりのコストがかかるため、難しい判断になるだろう。
今後の調査で注目したいのは、地上に残っているであろう、同一ロットのパイロ弁だ。予備用の部品が一つもないことはないだろうから、射場にはおそらく、打ち上げで使わなかった部品が残っているはずだ。実際に動作させたり、分解したりすることで、何か分かることもあるかもしれない。
前述のように、パイロ弁は一度しか動かすことができないため、打ち上げ前に、本番と同じように動かしてテストすることができない(動かしたらもう使えなくなってしまう)。その代わりに動作を保証するのが、納入時に行われる抜き取り検査だ。ランダムに抜き取ったパイロ弁が動作すれば、同一ロットのものは正常だろう、という判断である。
イプシロンでは、4〜6号機で、同一ロットのパイロ弁が使われていたという。1つ気になるのは、4号機の打ち上げは2019年1月だったので、少なくとも4年くらいは保管されていたということだ。2021年11月の5号機では正常に動作しているのでなんとも言えないが、経年変化の影響は少し気になるところだ。
ただJAXAによれば、パイロ弁には保管寿命が設定されており、その範囲内だったことは確認できているという。射場では、温度や湿度を管理している上、火工品は金属膜で覆われているため、湿気が簡単に内部に侵入することはないとのこと。これ以上のことについては、今後の調査を待つしかないだろう※)。
※)次回の調査結果の報告は2022年11月11日に行われる予定
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.