民間企業による宇宙利用が活発化する中で深刻な問題となっているのが、宇宙ごみ(デブリ)の脅威だ。本稿では、デブリをこれ以上増やさない対策の1つである「デブリを除去する技術」に焦点を当てるとともに、存在感を発揮している日本企業の取り組みを紹介する。
米国のSpaceXが衛星1万機以上による宇宙インターネットサービス「Starlink」の構築を進めるなど、民間企業による宇宙利用が活発化している。しかし、将来も継続的に宇宙を利用していく上で、深刻な問題となっているのが宇宙ごみ(スペースデブリ、以下デブリ)の脅威だ。現在の状況や対策がどうなっているのか、以下に見ていこう。
デブリは、これまでの人類の宇宙活動により、軌道上に残ってしまった不要な人工物のことである。大きなものには、ロケットの上段や壊れた衛星、小さなものには、ネジのような部品や破片などがある。推定によれば、現在、10cm以上のデブリは数万個以上、mmオーダーの小さなものについては、1億個以上も存在すると考えられている。
軌道上の物体は、超高速で飛行している。地球低軌道では、その速度は秒速8kmに達し、たとえ小さなネジ1本が当たったとしても、場所によっては衛星を破壊するだけの威力がある。
とはいえ、宇宙空間は広い。デブリがこれだけあっても実際はスカスカで、衝突する確率は非常に小さい。10cm以上の比較的大きなデブリについては、地上からの観測で軌道が正確に分かっていて、事前に衝突を避けることもできる。今すぐに危険というわけではないのでまずは安心してほしい。
ただ心配なのは、今後デブリの数がさらに増えてしまわないか、ということだ。実際、2009年に米国の通信衛星にロシアの廃棄衛星が衝突した際には、軌道上のデブリの大幅な増加が確認されている。また、2007年には中国、2019年にはインドが衛星破壊実験を行っており、当然ながらこういった蛮行によってもデブリは増えてしまう。
デブリ同士の衝突によって膨大な数の新しいデブリが生み出され、それによってさらに衝突が増える。特に懸念されているのは、デブリが一定数を超えたときに、自己増殖を始めてしまう「ケスラーシンドローム」である。こうなると、宇宙活動を長期間停止したとしても状況は元に戻らず、事態は悪化する一方だ。
デブリをこれ以上増やさないため、早急に有効な手を打つ必要がある。この対策としては、「デブリを作らない技術」と「デブリを除去する技術」が考えられ、前者については、例えば「衛星の運用終了時に高度を下げて再突入までの期間を短縮する」など、既にある程度の対策が実施されている。
一方、後者については、現在各国で研究が進められている段階だが、まだ実用には至っていない。本稿では、こちらについて注目して見ていきたい。
大きく分けて、軌道上のデブリを除去する技術には、「能動的デブリ除去(ADR)」と「受動的デブリ除去(PDR)」がある。ADRは、ターゲットとなるデブリを捕獲して降下させるなど、1つ1つデブリを除去していくもの。ロケット上段や廃棄衛星などの大型デブリは、基本的にこの方法になるだろう。
大型デブリは衝突によって、無数の小型デブリを発生させる恐れがある。これをまず除去するのが効率的、現実的といえる。現在、開発が進んでいるデブリ除去技術の多くはこのADRとなっている。
しかし、比較的数が少ない大型デブリはまだADRでも良いが、桁違いに数が多い小型デブリとなると、1つ1つ処理していくのはコスト的にも時間的にも現実的ではない。ただ、前述のように、デブリは小型でも破壊力が大きいため、安全性を考えればいずれは処理する必要がある。
小型デブリに対し有効と考えられるのがPDRだ。PDRは、軌道上でわなを張っておき、デブリが引っ掛かるのを待つようなイメージ。例えば、大面積の膜を展開しておけば、突き破った小型デブリは減速し、高度を下げる。デブリの密度にはムラがあるので、密度が高い軌道(=良く使われる軌道)に設置しておけば効果的だ。
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