では、実際に日本ではどんな衛星が開発中なのか、次に紹介しよう。
2013年設立のベンチャーながら、デブリ除去をリードするのがアストロスケールである。同社が現在開発を進めているのが、デブリ除去実証衛星「ELSA-d」だ。この衛星は、母船(180kg)と模擬デブリ(20kg)で構成。軌道上で模擬デブリを分離、回転させ、安全に捕獲できるかどうか実証する。
ランデブー技術には、双方が制御下にある「協力型」と、相手が制御下にない「非協力型」がある。デブリは必然的に非協力型にならざるを得ず、これが難易度を高くしているのだが、同社がユニークなのは、その中間ともいえる「準協力型」を提案していることだ。
同社の顧客は、衛星にドッキングプレートを搭載しておく。衛星が運用終了まで無事であれば自力で高度を下げるだろうが、もし何らかの不具合で制御不能になった場合、それは不可能になる。しかしこのプレートがあれば、マーカー・結合部として利用できるので、捕獲の難易度は下がる。重量は200gしかなく、衛星側の負担も小さくてすむ。
ELSA-dは2020年に打ち上げの予定。ドッキングプレートは今後打ち上げる衛星向けのサービスとなるため、既存のデブリは対象とならないものの、同社はELSA-dの技術を発展させ、既存デブリ向けのADRサービスの実現も目指すという。
伝統的な宇宙開発企業では、川崎重工業がデブリ除去に乗り出している。同社が除去対象としているのはロケット上段だ。前述のように、デブリ除去はどうやって捕獲するかが大きな課題であるが、同社が注目したのは、衛星との結合・分離機構となる衛星搭載部(PAF)だ。PAFは強度が高い上、円形のため捕獲の目印としても適している。
捕獲には、伸展ブームを使用する。ロケット上段に接近後、PAF内にブームを差し込み、PAFの中心あたりに到達したら、突っ張り棒のようなブームを四方に伸ばすことで固定する。伸展ブームはシンプルな機構なので信頼性が高い。固定後は、導電性テザーを使って高度を下げることを想定している。
同社はその技術実証として、60cm角の超小型衛星「DRUMS」を2021年度に打ち上げる計画だ。DRUMSはまだ、模擬デブリを分離してから伸展ブームを当てるだけの実証となるものの、同社は東京海上日動火災保険と三井物産と協業しながら、2025年の事業開始を目指している。
そして、つい先日の2020年6月11日に発表され、大きな話題となったのがスカパーJSATである。同社は19機の静止衛星を運用中の大手衛星通信事業者だが、理化学研究所、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、名古屋大学、九州大学と連携し、デブリ除去衛星の設計開発に着手。2026年のサービス提供を目指すという。
同社のデブリ除去衛星は、レーザーアブレーション方式を採用した。接触しない安全性の高さと、燃料が不要な経済性の高さから、この方式に決めたという。対象とするのは廃棄衛星で、レーザーを太陽電池パドルに当てるなどして回転を止めてから、減速のためのレーザー照射を行う計画だ。
レーザーサブシステムについては理化学研究所が開発を担当するが、これによって生み出される推力は1円玉にかかる重力以下という微弱なもの。衛星のような大型デブリを減速させるにはかなり長期間の照射が必要になるはずで、それが経済性にどう影響するかがやや気になるところ。技術的にも、レーザーの制御が課題になるかもしれない。
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