インダストリー4.0がもたらしたもの、デジタル化に伴う製造業の構造変化インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略(1)(3/5 ページ)

» 2022年10月31日 07時30分 公開

I4.0の流れの最先端を目指し、変化しつつある中国

 日本の立ち遅れが目立つ一方で、“世界の工場”としての役割を担ってきた中国では大きな変化が生まれつつある。2015年5月には中国版インダストリー4.0とも呼ばれる「中国製造2025」が発表され、スマート製造に向けた国家的戦略として展開されている。

 安い人件費と市場の大きさを生かして製造拠点を提供する従来型の“製造大国”から、イノベーションを生み他国の製造業をリードしていく“製造強国”へと転換するためのロードマップが掲げられ、着々と進行してきている。先述のライトハウスにおいても最大の35工場が認定され、次点の9工場認定の米国や6工場認定のフランス、5工場認定のドイツやインドを大きく引き離すなど、世界の製造業の先端になりつつある状況である。

マスカスタマイゼーション基盤を外部へ展開するハイアール

 モノづくりにおいて先端へと変化しつつある中国の動きを象徴する動きの1つとして紹介したいのが、1984年設立の世界最大規模の家電メーカーであるハイアールの取り組みだ。同社は三洋電機の買収や、GEアプライアンスの買収が日本では知られており、技術やノウハウを買っている企業とのイメージが強いかもしれない。しかし、その立ち位置は大きく変わってきており、新たなモノづくりのイノベーションを生み、世界に提供する側へと転換している。

 ハイアールではまず、自社の冷蔵庫などの工場(瀋陽、青島)において機能やデザイン、色などを顧客のニーズに合わせた個別生産をデジタル技術/自動化技術を活用して高効率に行う「マスカスタマイゼーション」の仕組みを実現した。その成果が評価され先述のライトハウスに認定されている。

 ただ、ハイアールの取り組みで特徴的なのは、これらの仕組みを世界20カ国の幅広い業界の製造業企業に外販する動きを示しているという点だ。自社のマスカスタマイゼーションを実現した仕組みを基盤とし、世界に先駆けたマスカスタマイゼーションプラットフォームとして「コスモプラット(COSMOPlat)」を外部に販売している。同プラットフォームは国際標準機関からマスカスタマイゼーションの標準策定に指名されており、国際標準もリードする存在となっている。

 従来は、生産性の向上やそれを通じたコスト削減、品質の安定化のためにも同一製造ライン/設備で、限られた品種の大量生産を行ってきたのがモノづくりの歴史である。その中で、顧客ニーズの多様化や製品ライフサイクルの短期化に伴い、日本企業をはじめとした製造業は製造プロセスの標準化や、段取替時間の最小化などたゆまない改善活動の中で、多品種少量生産を実現してきた。まさにモノづくり企業の技術とノウハウの結晶の一つが多品種少量生産である。

 今回のハイアールの取り組みは、デジタル技術を活用して、この多品種少量生産をさらに発展させた「マスカスタマイゼーション」を展開している。モノづくりにおいてドイツや日本などの先進国製造業が「ノウハウ提供側」であり、中国や新興国のモノづくりが「ノウハウ提供を受ける側」といった従来の構造が大きく変わってきていることを示す事例である。これらのグローバルで起こっている変化を真摯に受け止め、中国や新興国企業からも学んでいく姿勢が重要である。

photo 図5:HaierのマスカスタマイゼーションプラットフォームCOSMOPlat[クリックで拡大] 出所:筆者著書「製造業プラットフォーム戦略」より

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.