日本の製造業はかつて世界を席巻し、トヨタ生産方式をはじめ世界から研究され、ベンチマークされてきた。それではデジタル化が進む現在、日本の製造業は世界からどのように見られているのだろうか。世界経済フォーラム(WEF)が推進する「Global Lighthouse Network(以下、ライトハウス)」から日本企業の位置付けをひもといていく。
WEFのライトハウスは、第4次産業革命をリードする世界で最も先進的な工場をロールモデルとして位置付け、これらの先進工場でのさまざまな事例をグローバルネットワークとして共有することで、世界のモノづくりを前に進める取り組みだ。現在は全世界で103の工場が選ばれている(2022年10月時点)。
ライトハウスの選定基準は主に「自動化やデジタル化による生産効率向上」「人材育成や働き方」「企業や業界の持続可能性」「社会や環境へのインパクト」などの項目である。103の認定工場の所属国内訳としては、中国が35工場と圧倒的に多く、米国(9工場)、フランス(6工場)、ドイツ(5工場)、インド(5工場)がそれに次ぐ状況である。また、欧州は西欧と東欧合計で31工場と多い。インドに加え、トルコが4工場、東南アジアが合計9工場認定されるなど、新興国の工場も多く認定されていることも特徴だ。
その中で日本では、2工場が認定されたのみである。その内、1工場が外資系企業のGEヘルスケアの工場であるため、国内の日系企業の工場は、日立製作所の大みか事業所のみとなる。
今まで日本は、モノづくりで世界の先頭を走っていると考えられていた。ただ、ライトハウスの現状が示しているのは、デジタル技術の進展に伴い「灯台」の役割は新興国を含めた他国へ移りつつあることを一面として示しているのではないだろうか。もちろんライトハウスは、日本の全ての工場を見ているわけではない。また、ライトハウス自体のプロモーションにかける労力も他国と日本で異なっていると想定され、この結果のみが工場の先端性を示しているものではない。しかし、グローバルな機関がロールモデルとして認定する企業のネットワークに日本企業が食い込めていないことは、デジタル化の中でモノづくり先端の国としての位置付けを失いつつあることを端的に示す例だといえる。
ライトハウスに選ばれている工場の取り組みや成功要因の一つ一つを分解すると、革新的なコンセプトや、突出した技術を導入しているわけではない。既存の取り組みを着実に積み重ねることで、デジタル技術を活用したモノづくりオペレーションを実現しているものが大半だ。しかし、これらの一歩一歩の積み重ねが、大きな違いとなっていることは真摯に受け止める必要があるのではないだろうか。
ただ、日本企業に勝ち筋がないかというとそうではないというのが筆者の考えだ。「デジタル化」や「ツールの活用/拡大」という観点を切り出すと、日本企業は遅れているように見える。しかし、そのツールに乗せるためのオペレーションの技術やノウハウが製造業の本質であり、その部分は日本が元来強みとして持っている。再び日本のモノづくりが世界のロールモデルとなるためにも、これら認定企業の取り組みから学び、日本のモノづくりの強みを、デジタル時代の強みへ転換することが求められる。
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