さて、「治具」の話に戻りましょう。筆者が扱ってきたプリント基板関連の治具のほとんどは、部品実装関連です。部品実装には、新規の生基板に部品を搭載するものから、基板修理におけるリワーク作業、リボール作業などが含まれます。ここからは、部品実装治具の製作プロセスをお話ししていきましょう。
生基板の表面に、チップ部品(SMD:サーフェスマウントデバイス)を自動的に搭載する機械を「チップマウンター」といいます。チップマウンターに投入される生基板の部品搭載面にははんだペーストが塗られており、そこに位置を合わせてチップマウンターが自動的に部品を載せていきます。部品を載せた基板はそのままレールに乗って運ばれて隣の加熱炉に入り、炉内ではんだペーストを溶かして部品を基板に接合します。この加熱炉が「リフロー炉」です。このように、チップマウンターで部品を搭載してリフロー炉で焼いて接合する一連の作業が、「表面実装(SMT:サーフェスマウントテクノロジー)」と呼ばれる方式です。
通常は、基板の最終形状品を複数面付けした「シート基板」のまま部品実装をして、実装後に基板を分割しますが、フレキシブル基板や変わった外形形状の基板の場合は、先に基板を分割しておいてから部品実装をすることもあります。その際、チップマウンターに基板をセットする治具が必要になるわけです。
チップマウンターで全ての部品が実装できるわけではなく、自動搭載できない部品はマニュアルソルダリング(手付け)実装になります。その場合は、前回お見せした1枚板を削った「パレットタイプ実装治具」を使う必要があります。
作る治具の仕様は、基板の外形形状に合わせた“オンリーワン”のものから、ある程度サイズの調整ができるタイプなど、要望に応じてさまざまです。いずれにしても、基板の形状とサイズ、片面実装なのか両面実装なのか、端部からはみ出す部品の有無、搭載部品の最大高さなどを知る資料をそろえてから、どのような治具にするのかを検討します。
最近ではお客さまが参考資料として実装基板の3Dアセンブリデータを支給してくださることもありますが、そんなケースはまだまだ稀(まれ)です。面倒でもあいかわらずガーバーデータ(プリント基板の設計データ)と部品データシートを頼りに、事を進めていくことがほとんどです。流れのイメージを以下に示します。
実は、この「実装基板の3Dアセンブリデータを作る」作業が一苦労で、部品メーカーのWebサイトから3Dデータをダウンロードしたり、メーカーにデータが用意されていない場合はデータシートを頼りに自前で3Dモデルを作ったりします。このとき、全ての搭載部品の3Dデータを用意していたら実装基板のアセンブリデータを作るだけの作業に何日かかるか分からないので、背の低いチップ抵抗やダイオードは無視して、治具設計に関わる目立つ部品だけを選んで作業を進めていきます。
実装された部品を交換する作業を「リワーク」といいます。この作業はリワーク装置を使って基板を局部的に加熱して行いますが、このとき、対象部品のサイズに合った加熱ノズルが必要となります。そこで筆者は、お客さまから支給されるデバイスの資料から加熱ノズルを設計/製作して納品したり、治具も必要なら加熱ノズルとリワーク用治具を一緒に作って納めたりしています。
リワーク用治具の設計は、実装用の治具とほぼ同じ手順で行いますが、この場合は、治具設計の段階で対象となる実装基板を手に入れられるので、ガーバーデータがなくても設計作業が進められることが多いのです。実際、データよりも現物から設計を起こす方が楽ですし、出来上がった治具に対象基板を合わせて使い勝手を確認できることも助かる点ですね。 (次回へ続く)
藤崎淳子(ふじさきじゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余(うよ)曲折の末、2006年にMaterial工房・テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“一人ファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組み立て、納品を一人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンター加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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