中国では依然としてサプライチェーンが停滞しており、半導体の供給不足も続いている。JENESISでも製造拠点である中国国内のロックダウン(都市封鎖)による影響で、製造の遅延は避けられなかったが、1週間程度の稼働低下で乗り切ったという。
中国において、さらに深刻なのは製造ラインではなく開発の停滞にあると藤岡氏は指摘する。
「旧正月以降もロックダウンが続き、設計や開発エンジニアの手が止まってしまった方が影響としては大きい。彼らはテレワークに慣れていないこともあり、生産性も著しく下がった結果、1カ月以上のスケジュール遅延が発生しているケースもある。一方で、Android OSの中国国内の開発リソースは深センに大きく依存している。デジタル機器の発売延期は半導体不足の影響ももちろん大きいが、深センがロックダウンしたことで、各製品に搭載するAndroid OSの開発にも影響が出ているのも無視できない」(藤岡氏)
JENESISではこうした事態を早期に見越して、仕様が確定する前に納期が長い部品を先行して発注したり、ベンダーからファームウェアやOSが納品され次第、組み立て済みの製品に組み込むといった対応で納期遅延を最小限に食い止めているという。かつて、深センはあらゆる部品が集まる街だといわれていたが、今は1年先の半導体を発注している企業も少なくないと藤岡氏は現状を説明する。その上で、不確実性の高い状況で開発する際のポイントを尋ねた。
「第一に、スペックや仕様をハードウェアだけに依存しないこと。『この回路がないと、このスペックにならない』というような状況は回避すべきだろう。デジタル機器の開発現場でもカメラ用センサーが突然手に入らなくなる事態は往々にして起こり得る。そうなると代替品を使うことになり、PCB(プリント基板)やPCBA(PCBアセンブリ)をやり直すという事態も起きかねない。エンジニアは設計の段階からこういった事態を考慮しておきたい。ハードウェアの仕様変更や購買ルートの変更にはリスクを伴う。当社では何か起きた際に、すぐにBプランに切り替えられるような仕様を意識している。ファームウェアやクラウドに逃がせる処理があれば積極的に分散させてリスク管理することも重要だ」(藤岡氏)
昨今の不安定な市場環境を考慮して、JENESISでは薄型をキーコンセプトに大まかなデザインとレイアウトを決め、仕様変更可能な部分を早々に切り出し、フレキシブルに部品を変更できるよう開発を進めたという。
「薄型/小型が重視される中で、この手法は非常に有効だ。デザインから入るのではなく、機能性から突き詰める方が合理的に判断できる。サイクルが早い製品をスケジュール通りに作るために、確実に製造できる手法の確立が今後ますます重要になるだろう」(藤岡氏)
また、藤岡氏は深セン一帯が製造から研究開発へとシフトしていることにも言及した。これによって、競争原理がなくなり、部品の品質にも大きな影響が出ているという。
「同じ部品を扱うベンダーが10社から2社まで減っているケースも出ている。競争原理の低下は品質の悪化にもつながり、中国産電子部品の品質は安定性を欠いている。当社でも受け入れ時の検品で半数近くを廃棄するケースも続いている。工場を監査しても彼らは品質を上げることに興味がないので、この状況はすぐには変わらないだろう。製造する側で品質をハンドリングできる体制を持つことが重要だ。深センは製造の街からDX(デジタルトランスフォーメーション)/研究開発の街へとシフトしている。その中で、われわれはこだわりを持ってモノづくりを続けている」(藤岡氏)
JENESISが創業した頃から深センは大きく変化を遂げているが、いまだ製造業においては大きな存在感を放っている。藤岡氏は中国内部からサプライチェーンの変遷に向き合いつつ、日本市場向けの製品を手掛けてきた。その経験があったからこそ、aiwaブランド製品の開発/製造を実現できたという。
「黒子に徹した8年間があったからこそ、『aiwa』という歴史あるブランドの製品で勝負ができる。ポケトークがヒットした際、本来であればソニーのような大手が手掛けるべき製品だったと指摘されたことがあった。日本のメーカーがエントリークラスやミドルクラスの製品の製造から手を引き、中華系企業が進出してくるのであれば、自分たちがやるしかないという自負がある。今回の製品群は日本市場向けの機能やデザイン、耐久性にも徹底的にこだわり、保守やサービス面でも中華系企業には負けない体制を整えた」(藤岡氏)
これまでメーカーの黒子として、製造業をけん引してきたJENESISが新たな一歩を踏み出した。今回発表した製品には、長い月日を経て蓄積された経験とノウハウが込められている。彼らとしても今回のaiwaブランドの展開を機に、JENESISを知るきっかけにしたいと意気込んでいる。
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