さらに、吉田氏は「これらの感動を届けられる場である感動空間を広げていく」と訴える。「感動を作り出す部分の根幹は基本的にはそれほど変わらない。しかし、提供する手段は進化を続けている。放送やパッケージからネットワークを通じたものへと技術進化に合わせて変化してきた他、さらにネットワークを通じたエンターテインメントについても、ダウンロードやストリーミング、インタラクティブものなどさまざまな楽しみ方が生まれている。こうした技術進化に合わせ、最適な形で感動を伝える場を作り出していく」(吉田氏)。
これらを実現する技術としては、さまざまなゲーム技術があり、ここにBungieの技術を活用していく。「既にEpic Gamesが提供しているフォートナイトなどでは、ゲームというだけでなく、ライブエンタテイメントの提供や映画コンテンツの提供など、時間と空間を共有し、アーティストが新たな表現をする場となっている。こうした空間をさまざまなところで最適な形で作り出していく」と吉田氏は語る。
リアルとこうしたデジタルの組み合わせでこうした感動空間を作り出す取り組みも強化。英国のサッカーチームであるマンチェスター・シティ・フットボール・クラブとの協業や、音楽領域における仮想空間でのライブなどを展開。さらに、これらの新たな感動空間創出の例として、一般ユーザーが人工衛星に指示をして写真を自由に撮影できるサービス「Star Sphere」や、ワイヤレスイヤホン「LinkBuds」において、マイクロソフトやNianticと協業で進める音声AR(拡張現実)などの取り組みを紹介した。
こうした感動空間を創出する中で重要になると考えているのがメタバースである。吉田氏は「メタバースはこれから重要になる。単一の大きなメタバースで全ての物事を行うのではなく、さまざまな領域でそれぞれに合ったメタバースが提供されるようになる。その中でソニーグループとして対象とするのは、やはりエンターテインメント領域になるだろう。ソニーグループの技術的な強みは、映像や音声などリアリスティックな再現力やAIエージェントなどになる。これらを統合することでいろんな可能性を提供できる。ただ重要なのは、いかにクリエイターのクリエイティビティをインスパイアできるかという点と、ユーザーに感動を与えられるかということだ。これらに沿ったテクノロジーを強化し、場や技術の提供を進めていく」と述べている。
期待が高まるメタバースだが、事業についてはすぐに成果が出るものではないという認識だ。「メタバースを展開するにはビジネスモデルが課題だと考えている。すぐに大きな収益をあげられるものではないと見ている。エンターテインメント領域において考えた場合、ゲームやスポーツが対象となるが、どちらかといえば、ゲームはビジネスモデルが描けつつあると見ている」と吉田氏は見通しについて語っている。
もう1つの成長領域とするのが、モビリティ領域だ。ソニーは2020年1月の「CES 2020」において、次世代のモビリティの姿を模索する「VISION-S プロジェクト」を発表。その後、実車による走行試験などを重ねてきた。これらをさらに加速させるために、2022年3月にホンダと共同出資会社を設立してEV(電気自動車)の共同開発や販売、モビリティサービスの提供に取り組む発表を行っている。
モビリティへの取り組みを本格化させる中で、ソニーでは、貢献領域として「セーフティ(安全)」「エンターテインメント」「アダプタビリティ(適応性)」の3つを明確化した。「セーフティ」では、CMOSイメージセンサーやLiDAR向け距離センサーなどのセンサー技術で安全に貢献していく。「既にセンサーは多くの自動車メーカーに採用され始めている」(吉田氏)。
「エンターテインメント」については、ソニーグループの技術力を生かしモビリティを感動空間としていく。そして「アダプタビリティ」は、技術の進化や環境の変化に適応できる技術基盤の構築に取り組む。
吉田氏は「ゲームや犬型ロボットのAiboで培った知見などを生かす他、VISION-Sプロジェクトで進めてきた研究開発の内容を活用していく。ただ、これらの取り組みの中でモビリティの進化に本当に貢献するためには、商用化して世に問う必要があることを学んだ。ホンダとの協業により2025年にEVの販売を行う」と語っている。ホンダとの共同出資会社の設立については2022年内を予定しているが「現在協議を進めているところで、共同出資会社の概要についてはタイミングを見てあらためて発表する」(吉田氏)。
モビリティにおけるビジネスモデルについては「モビリティは時間軸は長く、ビジネスモデルを先に描くのではなく、どう貢献できるのかに集中すべきだと考えている。貢献できることが明らかになれば付加価値は勝手に生まれてくる」と吉田氏は考えを述べている。
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