―― 発売からしばらくたちますけれども、Z世代にアプローチできている手応えはありますか?
伊藤 あります。あまり細かくはお伝えできませんが、弊社のWebサイトを訪問したユーザーなどのデータを分析すると、非常に手応えを感じる結果が得られています。ただ、1世代目から全てのZ世代の方を取り込めたかというと、これは「Long Journey」になる、とお答えしておきます。
まずはLinkBudsでできること、パートナー企業と一緒にできる新しい体験価値の創造をどんどん広げていく。また、LinkBuds自体も進化していきますので、その過程の中で、より全Z世代の方に愛用してもらえるヘッドフォンにできるといいかなと思っています。
―― LinkBudsは約2万円弱という価格帯ですが、Z世代からすれば、かなり頑張って決心しないと買えない価格かと思います。そのあたりの値段感についてはいかがでしょう。
伊藤 (Z世代から見れば)もちろん価格は高いです。ただ、これもZ世代の生活様式を注視して分かったのですが、同時に彼らは品質などを含めて価値を感じられるものにはしっかりお金を払う、ということも見えてきています。
やっぱりZ世代にも満足してもらえる良いものを作る、そこに高いプライオリティを置いています。LinkBudsは音質だけでなく、装着性、センサーを伴った新しい体験の提供にこだわり、もちろん、イヤフォンとしての質も妥協なく作っています。
―― 「質感」という点でいうと、外装を再生プラスチックを使ってマーブル調に仕上げていますよね。色の均一さがないからこそ、面白い色合いに見えます。こうしたサスティナブルな取り組みって、若い世代のほうが年上の世代より関心が高いように思います。
伊藤 はい、おかげさまでいい形で受け取っていただいていると思います。私たちメーカーも、よりサステナブルで自然にやさしい素材を使ったモノづくりに取り組んでいかなければと感じています。
同時に、こういう新しい素材を扱うのは、新しい価値を生み出すチャンスだと思ってもいるんですね。再生素材を使う点でかなり制約は大きいのですが、既存の商品より塗装も少なくすみますし、ちょっと粒子を入れたような仕上がりも、新しい質感が生まれて面白い。こういった取り組みはためらわず、今後もどんどんやっていきたいです。
―― このLinkBudsの自然な装着感、Z世代ならではの長時間利用にも十分対応できそうですね。ただ、ここには単に「穴が空いてるから快適」という以上の意味合いがあるとも思うんですが。
伊藤 そうですね。着けていることを忘れるような装着感。言い換えると、これってもう、耳の機能の拡張そのものですよね。
自然体でいる人々が自然な装着感だと感じられて、そこに街中の外音やスマートフォンからの音も自然に飛び込んできて、いろんな体験をしてもらえる。耳の能力がどんどん拡張していくというか、進化していくのではないか。耳の拡張という意味で、ヘッドフォンの再定義がなされるかもしれないと思っています。
これまでのノイズキャンセリングイヤフォンの外音取り込み機能は、車内アナウンスの聞き逃しを防いだり、コンビニの店員さんと応対したり、危険の察知に役立てるためだったりと、基本的には遮音状態からの一時的な切り替えを主要な目的としていた。
一方のLinkBudsは、遮音性が全くなく、常時周囲の音がナチュラルに聞こえてくる。ノイズキャンセリングのマイクで拾う音との根本的な違いは、音の来る方向や立体感が分かることだ。これは左右の音量差だけでなく、音が耳たぶに反射したり、顔を回り込んだりした際の左右の聞こえ方のズレによって、人間の脳が音像を作り出しているからである。
こうした現実空間の音に、イヤフォンからの音を乗せて混ぜることで、新しい音の使い方が可能になる。それは音楽に限らず、誰かとの通話であったり、サウンドエフェクトであったり、もっと単純な音のビーコンであったりしても、それまでと異なった意味が現れる。
ヘッドマウントディスプレイやARグラスが人間の視覚を拡張するものだとしたら、それと同じ意味でLinkBudsは聴覚を拡張するものだ。単に「周りの音が聞こえるヤツ」と認識しているだけでは、LinkBudsを語ることはできない。「モノ」としての革新よりも、「コト」としての革新を行うデバイスだともいえるだろう。
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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