Z世代の心に響け、ソニーの“穴あき”イヤフォン「LinkBuds」に見る音の未来小寺信良が見た革新製品の舞台裏(21)(2/4 ページ)

» 2022年04月26日 09時00分 公開
[小寺信良MONOist]

ナチュラルな外音取り込みのため穴を空ける

―― 外の音を聞くだけなら、ノイズキャンセリングイヤフォンもマイクがあるので、それで集音すればいいじゃないか、という意見もあるかと思います。そうでなく、ドライバーに穴を空けてでも、耳穴で直接外音を聞けるようにすることの意義って、どこにあるんでしょう。

伊藤 究極的には、普段人間の耳が音を捉えているように、自然な形で外の音を拾うデバイスを目指しています。より自然に音楽と外の音が重なって耳に入りますし、長時間でも使いやすい。マイクロフォンで音を取り込む技術もどんどん開発していますが、現時点で一番ナチュラルな外の音を聴いてもらうには、やっぱり穴を開けるしかないかなと。

ドライバの中心にある穴から外音が聞こえる設計[クリックして拡大] 出所:ソニー

―― これまでソニーは「ambie」にしても「Xperia Ear Duo」にしても、耳をふさがないアプローチは本流から外れたところで出してきた印象があります。一方で、LinkBudsにはソニー本体から出すならもう一歩先を見た製品を作ろう、という思いが込められている気もします。

「Xperia Ear Duo」の着用イメージ[クリックして拡大] 出所:ソニー

伊藤 実は私がXperia Ear Duoの開発も担当してたんですが、外の音が自然に聞こえる点に関しては、日本をはじめ世界中の顧客から高い評価をいただきました。ただ、音のボリューム感については、まだ物足りないという意見もありました。

 耳の後ろのドライバーから音導管を使って耳穴まで音を伝える仕組みだと、どうしても音圧が下がってしまう。外の音をしっかり聞けるようにしつつ、高品質な音楽体験も提供するような、音導管に代わる何らかの仕組みを模索しないと、顧客に満足してもらえない。そこで、最初から穴が空いている状態のドライバーユニットが作れないかと開発をスタートし、完成したのが今のリングドライバーです。

リングドライバーはXperia Ear Duoとは違うアプローチから生まれた[クリックして拡大] 出所:ソニー

―― ダイナミック型ドライバの真ん中はもともと空いていて、普通はそこにキャップを被せて空気を押す面積や強度を稼いでいます。キャップなしで音を聴かせるのは大変なハンディになるかと思うのですが。

伊藤 非常に難しいチャレンジでした。空気を押し出す面積は小さくなりますし、強度も弱くなる。いろいろ技術的に不利なところがありますが、やはりドライバーを外耳道に近いところで鳴らさないと、本当に満足いただける音圧を実現するのは難しいだろうと考えました。

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