大阪大学大学院工学研究科と島津製作所、シグマクシスは、「培養肉を自動生産する3Dバイオプリント技術」に関する記者説明会を開催した。同技術の開発および普及によって、食糧問題はもちろんのこと、医療や健康、環境などのさまざまな社会課題の解決につなげることを目指す。
大阪大学大学院工学研究科と島津製作所、シグマクシスは2022年3月28日、「培養肉を自動生産する3Dバイオプリント技術」に関する記者説明会を開催した。同技術の開発および普及によって、食糧問題はもちろんのこと、医療や健康、環境などのさまざまな社会課題の解決につなげることを目指す。
3者は「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向けた協業に関する契約を締結したことを発表。また、それに先立ち、大阪大学大学院工学研究科と島津製作所は「3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉の自動生産装置の開発」に関する共同研究契約を締結したという。
3Dバイオプリント技術の研究に取り組む大阪大学大学院工学研究科と、自動前処理装置を含む分析計測機器を手掛ける島津製作所、フードテック領域におけるコンサルティングやエコシステム構築に強みを持つシグマクシスの3者が協業することで、3Dバイオプリント技術の開発を加速させると同時に、社会実装に向けた関連企業および研究機関との連携を推進し、環境/食糧問題の解決や健康増進、創薬、医療の進化に貢献することを目指すとしている。
3Dバイオプリント技術とは、大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 教授の松崎典弥氏ら研究グループが確立したもので、動物の細胞を活用して、筋/脂肪/血管という異なる線維組織を3Dプリントし、それら線維を束ねて統合することで、筋肉組織の構造を自由自在に作成できる技術である。従来の培養肉の多くが筋線維のみで構成されたミンチ構造であり、複雑な構造を持たせることが困難であったのに対し、筋/脂肪/血管の配置を制御したステーキ肉のような厚みのある構造を作り出すこと(肉組織の構造化)が可能であり、和牛の美しいサシを再現したり、脂肪や筋成分の微妙な調整を行ったりすることもできるという。
今回の協業では牛肉をターゲットに培養肉の実現を目指すが、「肉としての構造を備えた生き物で、細胞が培養できるものであれば、牛肉以外の豚肉や鶏肉にも応用可能だろう。『マグロや伊勢海老などへ適用できないか?』といった問い合わせも来ている」と松崎氏は説明する。
今後、大阪大学大学院工学研究科と島津製作所は、3Dバイオプリント技術による培養肉の生産を自動化する装置を共同で開発する。また、島津製作所は味や食感、風味、かみ応えなどの「おいしさ」に関わる項目はもちろんのこと、栄養分などの含有量といった「機能性」の分析を行うソリューション開発に向けて、「培養肉開発に関わる分析計測技術の提供」を行うとしている。
具体的には、プリントセルへのバイオインクのプリント、立体培養、培養肉の成形という一連のプロセスを自動化するシステムの開発を目指す。また、筋/脂肪/血管のプリントセルのサイズを拡大し、大量に生産することで、ステーキ肉のような大きさの培養肉を実現するとともに、霜降り具合も自在にデザインできるテーラーメイドを可能にするシステムとする。培養状態を評価するシステムと連動する他、島津製作所のさまざまな分析機器を活用することで、食感や味、風味などの評価を行う。島津製作所 専務執行役員 分析計測事業部長の馬瀬嘉昭氏は「『おいしい』だけではなく、健康増進などの『ヘルシー』に役立つ機能性成分の分析や評価の実現も目指している」と語る。
また、シグマクシスは3Dバイオプリント技術の社会実装に向けたプログラムマネジメントオフィス(PMO)としての役割を担い、これまでコンサルティング事業で培ってきたプログラムマネジメント(PM)能力と、フードテックコミュニティーをはじめとした多様な企業とのアライアンスネットワークを生かし、今回の協業の取り組みを支援していく。
今後のマイルストーンとしては、2025年に開幕予定の「2025年日本国際博覧会」(略称:大阪・関西万博)でのお披露目を目指しており、「自動生産装置によって培養肉を製造し、“実際に食べられる”ところまで実現したい」(シグマクシス Digital&SaaS Sherpa Directorの桐原慎也氏)という。
さらに、その先の展開として、動物の細胞を活用することで培養肉を製造する3Dバイオプリント技術を人の細胞に適用し、再生医療や創薬への応用にもつなげていく考えを示す。松崎氏は「培養肉の実現は2025年をターゲットに進めていく。医療や創薬への展開はそれよりも数年先の話になるだろう」と説明する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.