共同研究開発契約の一例として、経済産業省と特許庁が公開したモデル契約書(AI編)では、以下のように定めています(利用契約第2条、第3条、第4条)。
第2条 甲は乙に対して下記の内容のデータ解析サービスを提供する。
記
(1)解析対象データ
乙からAPIを通じて解析がリクエストされた対象データ
(2)解析に利用する学習済みモデル
本学習済みモデルおよび追加学習済みモデル
(3)解析内容
(2)に定める学習済みモデルを利用して対象者の状態推定を行い、その推定結果を乙に提供する。
(4)サービス利用期間
本契約の有効期間と同一とする。
※甲=スタートアップ、乙=事業会社。以下同。
第3条 甲は、乙以外の第三者に対して、本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルを用いたサービス(本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルの複製物を当該第三者に提供するか否かを問わない)を提供することができる。
2 乙は自らおよび第三者のために本契約に定める条件の下でデータ解析サービスを利用することができる。
第4条 甲は乙に対して以下の内容の追加学習サービスを提供する。
記
1 追加学習の対象となる学習済みモデル
本学習済みモデルおよび追加学習済みモデル
2 追加学習に利用するデータ
対象データおよび乙以外の第三者が甲に提供したデータ
3 サービス利用期間
本契約の有効期間と同一とする。
4 甲および乙の具体的作業内容
(1)甲の担当作業
・対象データの前処理
・対象データのアノテーション
・追加学習済みモデルの学習に用いる学習用データセットの作成
・追加学習サービスに用いるために対象データを整形又は加工した学習用データセット(以下「追加学習用データセット」という。)の作成
(2)乙の担当作業:
・追加学習済みモデルの精度の向上に必要なノウハウの提供
5 作業頻度・回数
サービス利用期間内において甲が適切と判断した頻度・回数
6 追加学習用データセットの取扱い
(1)甲は、追加学習用データセットを乙に対し開示する義務を負わない。
(2)甲は、追加学習用データセットを、本契約期間中およびその終了後も本契約第5条1項に定める目的で利用することができる。
(3)甲は、追加学習用データセットを第三者に開示等してはならない。
7 追加学習モデル等の著作権の帰属
(1)追加学習済みモデルおよび追加学習サービスの遂行に伴い生じた知的財産に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。以下本契約において同じ。)は、乙または第三者が従前から保有していた著作権を除き、甲に帰属する。
(2)甲および乙は、本契約に従った追加学習済みモデルの利用について、相手方および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しない。
(3)本項(1)の規定にかかわらず、甲が本契約第15条1項2号または3号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、上記7(1)に定める著作権を甲または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することを求めることができる。
8 追加学習モデル等の特許権等の帰属
(1)追加学習済みモデル等にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。以下「特許権等」という。)は、追加学習済みモデル等のうち、特許権等の保護対象となる発明等を創出した者が属する当事者に帰属する。
(2)甲および乙が共同で創出した追加学習済みモデル等に関する特許権等については、甲および乙の共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。
(3)甲および乙は、上記8(2)に基づき相手方と共有する特許権等について、必要となる職務発明の取得手続(職務発明規定の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等)を履践する。
9 追加学習済みモデルの利用条件
追加学習済みモデルの利用条件は、本契約に定める本学習済みモデルの利用条件と同等とする。
10 OSSの利用
(1)甲は、追加学習サービス提供の過程において、追加学習済みモデルを構成する一部としてオープン・ソース・ソフトウェア(以下「OSS」という。)を利用しようとするときは、OSS の利用許諾条項、機能、脆弱性等に関して適切な情報を提供し、乙に OSS の利用を提案するものとする。
(2)乙は、上記10(1)に定める甲の提案を自らの責任で検討・評価し、OSS の採否を決定する。
(3)本契約の他の条項にかかわらず、甲は、OSS に関して、著作権その他の権利の侵害がないことおよび不適合のないことを保証するものではなく、甲は、上記10(1)所定の OSS 利用の提案時に権利侵害または不適合の存在を知りながら、もしくは重大な過失により知らずに告げなかった場合を除き、何らの責任を負わない。
11 本共同開発契約第6条(各自の義務)、同第8条(再委託)、同第9条(本契約の変更)は、甲による追加学習サービスによる追加学習済みモデルの生成に準用する。
データ解析サービスなどを提供する場合、サービス利用者からサービス提供者に対して、一定のデータが提供されることになります。サービス提供者が、当該データをどの範囲で利用できるかを定めることは、利用契約における最も重要ことの1つです。データの利用範囲を定める場合には、例えば、以下の点が問題となります。
(1)利用契約終了後においても利用することができるか否か
(2)サービス提供以外の目的での利用を認めるか否か
(3)第三者へ提供するサービスでの利用を認めるか否か
提供されるデータが貴重であればあるほど、データの提供者は、自身へのサービス提供以外の目的での利用禁止を求めがちです。しかし、モデル契約(AI分野、利用契約)前文の解説でも言及されているように、例えば、スタートアップが顧客にAPI連携を活用するSaaS(Software as a Service)型ビジネスモデルのサービスを提供する場合、事業のスケールには、スタートアップ自らが当該サービスの直接的な利用企業だけでなく、その企業を通じて多数の事業会社にも間接的にサービスを提供することが必要になります。
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