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» 2022年03月08日 13時00分 公開

ヤマハ発動機が目指す「理論値生産」への道MONOist IoT Forum 2021 Digital Live(後編)

MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンの、アイティメディアにおける産業向けメディアは2021年12月8〜9日、オンラインでセミナー「MONOist IoT Forum 2021 Digital Live」を開催した。本稿では特別講演に登壇した、ヤマハ発動機 設備技術部 部長の茨木康充氏による「ヤマハ発動機の考える『人』が主役のスマートファクトリ」と題した特別講演の内容を紹介する。

[長町基,MONOist]

 MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンの、アイティメディアにおける産業向けメディアは2021年12月8〜9日、オンラインでセミナー「MONOist IoT Forum 2021 Digital Live」を開催した。同セミナーは通算で15回目となり、前回に引き続きオンラインでの開催となった。

 前編では横河電機 横河プロダクト本部 コントロールセンター センター長の鹿子木宏明氏による「製造業でのAI(人工知能)データ解析・AI制御の最先端と、そのさらに先」の内容を紹介したが、本稿では特別講演に登壇した、ヤマハ発動機 設備技術部 部長の茨木康充氏による「ヤマハ発動機の考える『人』が主役のスマートファクトリ」と題した特別講演の内容を紹介する。

何のための製造DXか

photo ヤマハ発動機 設備技術部 部長の茨木康充氏

 ヤマハ発動機は16カ国、27工場で二輪車の生産を行っている。その中で、鋳造、加工、プレス、溶接、鍛造、組み立てまで多様な内製工程をグローバルに展開しているところが特徴となっている。

 日本国内で生産している輸出向けの二輪車は少量多品種製品であり、プラットフォームレベルで年間3万から4万台レベルと小規模のものが多い。しかも、販売面で考えると、気候の良いシーズンには大きく販売台数が伸びそれ以外の季節はそれほど売れないという季節変動の大きな製品だ。特に、春需要と冬需要の段差が大きくなり、この量の変動に対応しつつ効率的な生産方式の確立が大きな課題となっていた。

 加えて、人手不足の深刻化などの問題も生まれている。二輪車の生産ではいまだに人手に頼る領域も多い。特に外観品質を保つための仕上げ作業は多くの人手作業が残っている。ただ、労働人口減少が進む中、今後人手を確保し続けることが難しいことも想定され、自動化領域を広げていくことが求められている。

 こうした中で取り組んだのが、製造DX(デジタルトランスフォーメーション)である。ただ、すぐに成果を出せたわけではない。ヤマハ発動機で製造DXへの取り組みを開始したのは2018年頃からだが「ここからのさまざまな取り組みの中で分かってきたことは、DX化したからといって製造現場の課題が解決されるわけではないということだ」と茨木氏は指摘する。

 これは、デジタル化そのものの価値を否定するものではなく「何のためにデジタル技術を使うのか」という目的が重要であることを示している。茨木氏は「現状の課題に対して、既成概念を変革して課題解決を行うために、現行プロセスを打ち破ることが重要だ。そのためにDXを使うという『DX for(目的)』の考え方が必要になることをあらためて感じている」と語る。

 具体的には、まずマネジメント層、製造現場、生産技術、ITなどそれぞれの部門で、考え方のすれ違いが見られ、製造DXの目的が一致しないために話が進まない問題が生まれた。特に、現場ではマネジメント層からDXの導入を指示されても、それによって業務が楽になるイメージが生まれないケースが多いという。

「理論値生産」のもたらす意味

 そこで同社が取り組んでいるのが現場の改善活動における「理論値生産活動」だ。理論値生産は、さまざまなロスを省いた「価値稼働時間」の中にもまだ価値を生んでいない無価値作業時間や技術的に課題があるために生まれているムダなどがあるという前提に立ち、条件が整った際の最速時間を「技術理論値」を位置付け、この技術理論値に向けたロスの低減や新たなモノづくりの手法を生み出すことを目指す考え方だ。現状の製造現場の制約などに縛られずに製造現場の革新を推進する発想の考え方ができるようになるため、既存の枠組み前提での「品質」「コスト(出来高)」「納期」を超越するアウトプットを可能にし、「投資」「要員」「経費」「在庫(リードタイム)」を極小化することで経営貢献を進めることができる。

 この「価値を生み出す」モノづくりを進めるため、生産本部の活動である計画、作業、品質、保全の4つの領域を「価値」「無価値」「準価値」に定義し、工場全体でどのくらいのロスを抱えているのかを洗い出した。それを工場や製造ラインに展開するための、具体的なスマートファクトリー化のキーテクノロジーとして「自働検査」「自働搬送」「自働作業」「状態監視およびトレーサビリティー」の4つを定めた。この4つの技術を開発領域として、さまざまな活動することを進めている。

 具体的な取り組みの例の1つとして「イーグルアイ」がある。これは、鋳造の現場でのベテランオペレーターを中心に進められた良品条件を簡単に見つけられるシステムである。良品条件をリアルタイムで見える化し、熟練技術者でなくても実際の生産までのリードタイムを短縮できる。この活動の成果として、工程試験のやり直し防止や、不良の未然防止効果で着実に実績が生まれているという。

 茨木氏は、「理論値活動を軸にし、理論値思考で現状を否定し演繹的に考える人財(変革人財)の育成を目指している。『人』が主役のスマートファクトリーの実現を目指す。これまでできなかった成果を生み出すためにもデジタルは強力なツールとなる。デジタル技術の内製にこだわりながら、目利き力を養い、導入部門と現場が一緒になって、みんなで助け合い楽しく進めていきたい」と語っている。

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