特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜
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» 2022年01月25日 10時00分 公開

FA難民を救え! サイバーとフィジカルだけじゃないヤマ発のスマート工場【後編】スマート工場最前線(1/4 ページ)

二輪車大手のヤマハ発動機は、実際にモノづくりを行う現場の人々にとって実利の得られる形で工場をスマート化する取り組みを進めている。前編に続き後編では、同社がスマート工場に向けて開発を進めている4つのキーテクノロジー「自働搬送」「自働検査」「自働作業」「状態監視+トレサビ」について紹介する。

[朴尚洙,MONOist]

 二輪車大手のヤマハ発動機は、かつてスマート工場プロジェクトでPoC(概念実証)から前に進められなかったという苦い経験を経て、実際にモノづくりを行う現場の人々にとって実利の得られる形で工場をスマート化する取り組みを進めている。前編では、ヤマハ発動機 生産技術本部 設備技術部長の茨木康充氏に、スマート工場プロジェクトを推進するための考え方や仕掛け、具体的な施策と成果などについて聞いた。

 今回の後編では、同社がスマート工場に向けて開発している4つのキーテクノロジー「自働搬送」「自働検査」「自働作業」「状態監視+トレサビ」について、どのような取り組みを進めているのかを紹介する。

ヤマハ発動機のスマート工場における4つのキーテクノロジー ヤマハ発動機のスマート工場における4つのキーテクノロジー。前提となる「現場経験×理論値思考」は前編記事を参照[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

「自働搬送」では工場の“毛細血管役”となるAGVを100万円以下で実現

 コロナ禍でより一層求められている工場内の自動化技術で、近年注目を集めているのがAGV(無人搬送車)の活用だろう。ただし、これまで利用されてきた磁気テープ方式などの誘導物を用いるAGVは使い勝手がいいとはいえず、一方で誘導物が不要のSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)方式のAGVは高価なことが導入の課題になっている。

 ヤマハ発動機の「自働搬送」では、AGVの用途を誘導物の要不要、屋内のみと屋内外可能で分類した上で、「誘導物不要のSLAM方式で屋内外可能」と「100万円以下の超廉価AGV」での取り組みを進めている。

「自働搬送」の分類 「自働搬送」の分類。ヤマハ発動機は「誘導物不要のSLAM方式で屋内外可能」と「100万円以下の超廉価AGV」で取り組みを進めている[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 まず、「誘導物不要のSLAM方式で屋内外可能」で開発したのが、ヤマハ発動機の商材であるゴルフカーをベースに工場内外の重量物搬送を行うAGVだ。

 浜北工場(静岡県浜松市)では、加工のシフトが3直であるのに対して、部品搬送などの物流は、有人運転の車両で部品を搭載した荷車をけん引する“カルガモ方式”により1直で行っていた。このため、深夜シフト分の部品が出荷場所に滞留する等の課題があった。そこで、重量物の搬送と屋外利用ができるAGVの導入を検討したが最適なものがなかったため、ゴルフカーに自動運転ソフトウェアで知られるティアフォーの技術を搭載したAGVを開発した。茨木氏は「このAGVについてさまざまなテストを行ったところ、ヒヤリハット、夜間の検知、荷物けん引中の緊急停止など現実的な問題がどんどん出てきた。そして、現在あまり市場にないカテゴリーのAGVということもあり、この開発成果を基に事業化することも決めた」と語る。

ゴルフカーベースの重量物搬送AGV ゴルフカーベースの重量物搬送AGV[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 2021年9月には、ヤマハ発動機とティアフォーの共同出資会社であるeve autonomy(イヴオートノミー)が、工場や物流拠点などの構内向け自動運転車「eve auto」の先行受注開始を発表している。

 一方、工場の“毛細血管役”としてさまざまな現場でAGVを活躍させるべく、ヤマハ発動機の設備技術部が企画したのが「100万円以下の超廉価AGV」である。10万円かかっていない材料や部品などを組み合わせるモジュール開発コンセプトであり、これによって30万〜100万円でAGVを作れるようにした。このモジュール開発コンセプトは、設備技術部がAGVの内製を全て行うのではなく、当初はコンサルする形で支援するが「とにかく現場の技術者に自分でやってもらう」(茨木氏)ものとなっている。

「100万円以下の超廉価AGV」はモジュール開発コンセプトで実現 「100万円以下の超廉価AGV」はモジュール開発コンセプトで実現[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 また、工場は作業環境が厳しい場所も多数ある。例えば、製品温度が300℃になる鋳造部品を扱う現場は高温環境であり中子の砂落ちなどもある。そういった環境に求められる耐久モデルは、構造材に産業用部品や車いすを使用し、コントローラーやセンサーも産業用グレードを選べるようにして対応している。

鋳造現場向けの耐久タイプ 鋳造現場向けの耐久タイプ[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 同様の機能を持ったAGVであれば150万〜300万円で入手可能だ。茨木氏は「しかし、外からモノを買うと、中身がブラックボックスであるため導入に時間がかかる上に、うまく使いこなせない場合もある。それなら、より安価でブラックボックスではない内製AGVの方が導入しやすいだろうと考えた。自身の現場に関わる機能を持ったAGVを自分で開発してもらうことで、現場技術者のITリテラシー向上にも役立つと考えている」と説明する。

 また、AGVを用いた「自働搬送」では、モノだけでなく情報も運んでいることを重視して、AGVの状態監視データ、バッテリー状態、AGVのログ情報などを蓄積し、活用できる仕組みを用意している。これによって、AGVのバッテリー交換もロボットで自動化することなども可能になっている。

モノだけでなく情報も運ぶAGVのデータも活用 モノだけでなく情報も運ぶAGVのデータも活用[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 茨木氏は「PL(損益計算書)が重視される中で、一定以上高額なAGVの導入によるBS(バランスシート)/CF(キャッシュフロー)の効果試算は難しい。つまり、AGVの導入が進まない原因はAGVが高価なことであり、それを安価にすることで解決した」と強調する。

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