大学や研究所における研究活動のやり方は、論文などの形で成果を出すことを除けば各研究者に任されていることが多い。例えば、40歳以上の研究者であれば、実験の記録は専用の紙のノートに書きこむ形でアナログに記録するという手法を通して経歴を積んできているが、デジタルネイティブと呼ばれるような20歳代の若手の研究者はタブレット端末などを活用してデジタルに記録するようになっている。
井元氏は「企業で研究を行う場合は、企業が用意したインフラを使わなければならないので、こういった研究活動のやり方の違いは出にくい。しかし、大学や研究所での研究活動のやり方は、あくまで各研究者に委ねられている。とはいえ、デジタル化のためのITはプラットフォームとして導入されるので、一部の研究者が活用してその有効性を認知すれば、忌憚なく取り入れる研究者も多い。現在は、各研究者からの“デジタルの染み出し”が全体に浸透し始めており、OLSCのようなクラウドサービスを受け入れる土壌ができている」と述べる。
ここまで上げてきたOLSCの特徴や機能は、オフィス業務のデジタル化で導入されているさまざまなソリューションに近い。例えば、データの一元管理は「Box」などのストレージサービスがあり、クラウドを使った文書のデータ連携は「Microsoft 365」や「Google Workspace」、チャット機能であれば「Slack」や「Teams」がある。これらは、OLSCと競合しないのだろうか。
井元氏は「機器データと連携する機能を考慮すると、これらのソリューションはOLSCの競合にはならない。逆に、OLSCの利用範囲を広げるために積極的につなげていく必要があると考えている」と説明する。何よりOSLCは、これらの個別の機能ではなく、ライフサイエンス研究を行う大学や研究所における研究者のワークフローをデジタル化するために開発された。「競合として電子実験ノートが挙げられることもあるが、ワークフローソリューションという観点では完全に被っていない。研究者の利便性向上のためにも、OLSCと積極的につなげていく必要があると考えている」(同氏)。
また、OLSCは、大学や研究所のラボ単位、研究室単位で導入を検討しやすい価格体系になっている。まずは、ストレージ容量100GB、最大利用人数3人のスタータープランは無償で利用できるので先行検討がやりやすい。予算の制約が厳しい研究室にとって、無償でサービスを試せることは重要な要素だ。スタンダードプランは、ストレージ容量1TB、最大利用人数10人で月額利用料は4万円。ほとんどの研究室が10人以下の規模で活動していることを考えると、これがメインストリームのプランになるだろう。複数研究室での共同研究プロジェクトなど向けに、ストレージ容量10TB、最大利用人数20人、月額利用料10万円のプレミアムプランも用意している。さらに、2022年3月31日まで、FV3000とCM20のユーザー向けにスタンダードプランを6カ月間無償で利用できるモニター募集キャンペーンも行っている。
オリンパス 科学事業 ライフサイエンスビジネスストラテジー デジタルソリューションビジネス マネジャーの朝倉博美氏は「研究者は実験と測定を重ねた上で、他研究者との議論を通して論文を執筆する。論文の執筆を終えるまでには、研究室内でひともんちゃく起こるのが当たり前だが、OLSCはこのひともんちゃくを素早く出せるようにするところに狙いがある。まずは、2024年までの3年間で、オリンパス科学機器ユーザーの10%の採用を目指したい」と述べている。
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