本連載第57回および第70回で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するEUのウイズコロナ/ポストコロナ時代に向けた新戦略を取り上げたが、2021年7月13日、欧州理事会は、フランス政府が提出した「国家復興・強靭化計画(NRRP)」を承認した(関連情報)。
同計画を通じてフランス政府は、前例のないCOVID-19パンデミックに対応するため、総額3940万ユーロを投資し、2026年8月までの計画遂行を目標に、環境/気候変動やデジタル変革の課題と可能性への取り組みを強化するとしている。
またフランス政府は、EU理事会議長国を務める2022年上半期における保健医療関連テーマとして、以下のような項目を掲げている(関連情報)。
なお、本連載第70回で取り上げた「EU4Healthプログラム」や「欧州保健データスペース(EHDS)」に関連して欧州委員会は2021年2月12日、「欧州気候・インフラストラクチャ・環境政策庁、欧州保健・デジタル政策庁、欧州研究政策庁、欧州イノベーション会議・中小企業政策庁、欧州研究会議政策庁、欧州教育文化政策庁の創設および実施決定の廃止」(関連情報)を発表し、同年2月16日付で欧州保健・デジタル政策庁(HaDEA)を新設している。
HaDEAは、以下のようなミッションおよびビジョンを掲げている。
図5は、HaDEAのWebポータルである。
HaDEAは、EU4Healthプログラム、ホライズン・ヨーロッパの保健研究部分、単一市場プログラムの保健コンポーネントなど、全ての保健関連活動に専心するとともに、欧州のデジタル時代への参入を保証するデジタルプログラムをとりまとめる役割を担う。
HaDEAが展開するプログラムでは、欧州委員会の保健・食品安全総局などと連携しながら、EU全域に渡る政策立案の法的・戦略的タスクに取り組むとともに、欧州委員会に代わり、以下のようなEUのプログラム/イニシアチブを管理するとしている。
「ホライズン2020」や「ホライズン・ヨーロッパ」に代表されるEUの研究開発プログラムには、日本の教育・研究機関や民間企業が多く関わってきた。その一方で、フランス国内にイノベーション拠点や欧州事業拠点を置く日本企業も多く存在する。
医療機器・医薬品開発に関わる医療機器規則(MDR)や臨床試験規則、個人情報保護に関わる一般データ保護規則(GDPR)、サイバーセキュリティに関わる欧州NIS指令2など、さまざまな欧州域内統一の法規制対応が要求される欧州市場であるが、各加盟国とも、独自の強みを生かした科学技術外交政策を展開している。
特に、メルケル氏引退後の欧州政治にとって変化の節目となる2022年、EU全域レベルおよび各加盟国レベルで展開される科学技術外交の行方は、日本のライフサイエンス産業の将来にも影響を及ぼす可能性が高い。そのような観点から、フランス以外の国・地域に欧州事業拠点を構えるライフサイエンス企業も、EU理事会議長国の動向を注視する必要があろう。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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