理化学研究所は、季節性コロナウイルスに応答する記憶免疫キラーT細胞が、類似したウイルスにも反応する抗原部位を持つことを発見した。その部位が、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質領域にも、強く交差反応することが分かった。
理化学研究所は2021年12月8日、季節性コロナウイルスに応答する記憶免疫キラーT細胞が、類似したウイルスにも反応する抗原部位を持つことを発見したと発表した。その部位が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質領域にも、強く交差反応する(殺傷効果を示す)ことを明らかにした。
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ウイルスが体内に侵入すると、免疫細胞の1種であるキラーT細胞が働く。感染した細胞上で、ヒト白血球型抗原(HLA)に提示された抗原の一部を認識し、感染細胞を破壊して重篤化を防ぐ。この抗原の一部はエピトープ(抗原決定基)と呼ばれるウイルスの特定の構造単位で、アミノ酸などから構成される。
今回の研究では、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質領域に存在するエピトープに着目。6種類のエピトープ候補から、日本人に多いHLAタイプ「HLA-A*24:02」と親和性の高い新型コロナウイルスのエピトープとして、QYIペプチドを同定した。
QYIペプチドに対するキラーT細胞の反応性を調べたところ、健常人の80%以上が反応した。一方で、新型コロナウイルスのハイリスク群とされる造血器腫瘍患者では、約15%しか反応しなかった。
この結果は、造血器腫瘍患者では、病気の進行や化学療法でキラーT細胞の免疫が低下していることを示唆する。しかし、造血器腫瘍患者でも、QYIペプチドの周辺にエピトープ群が集中するホットスポットがあり、キラーT細胞が反応することを確認した。
また、新型コロナウイルス由来のQYIペプチドは、季節性コロナウイルスが該当するペプチドのアミノ酸配列と高い相同性を持つことが分かった。
そこで、キラーT細胞の交差反応性を検証したところ、新型コロナウイルスと季節性コロナウイルスの両方のエピトープに対して、同等の結合力を持つことが判明した。このことから、過去に風邪(季節性コロナウイルス)にかかった際に働いたキラーT細胞が、新型コロナウイルスに反応する可能性が示された。
日本は欧米と比較し、新型コロナウイルスの感染者数や死亡者数の割合が少ないとされる。今回、日本人に多いタイプで、実際に多くの人が反応する抗原部位を同定したことで、重症度診断やワクチン効果診断、治療薬開発への貢献が期待される。
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