パナソニックは2021年10月15日、トヨタ自動車と共同で指の安全性評価用ツール「指ダミー」を開発したと発表した。生産現場でのロボットや治具などとの挟まれ事故におけるリスクの度合いを客観的に評価できるようになる。
パナソニックは2021年10月15日、トヨタ自動車と共同で、生産活動時に作業者がけがをしやすい指についての安全性を評価するためのツール「指ダミー」を開発したと発表した。生産現場でのロボットや治具などとの挟まれ事故におけるリスクの度合いを客観的に評価できるようになる。
今回発表した指ダミーは、生産現場でのロボットとの接触リスクの度合いについて「裂傷」を指標に評価するツールである。もともとはパナソニック内部で家電機器や住宅設備を製造する際の安全性評価に用いられていたが、2018年度からトヨタ自動車と連携してモノづくり現場向けの製品にするための開発、実証実験を進めてきたという。
指ダミーは指の皮膚をイメージした軟材料と、ステンレス製の芯棒、取っ手部分で構成される。軟材料の裂傷強度(裂傷を発生させ得る荷重)は、人間の皮膚と同程度と推定される20±2Nとして設計した。この数値を超えた力が加わると、軟材料に裂傷が発生する可能性が高まる。
裂傷の有無は、「無傷」「軽微」「中程度」「重大」「致命的」と段階的に区別されるけがの程度の内、「軽微」と「中程度」を区別する指標となる(裂傷が生じた場合は中程度)。裂傷強度の数値は、人間の皮膚に近いとされる豚皮膚を用いた実験を参考に設定したという。また、指ダミーは人間の指の骨が持つ曲率を簡易的に再現しており、挟み込み事故などの重大事故のリスクをより正確に再現できるようにしている。
指ダミーの開発意義について、トヨタ自動車 モノづくり開発センター 開発試作部 生産プラットフォーム革新室の吹田和嗣氏は「自動車部品の生産現場には固いものやとがったものが多く、ロボットやワーク、治具、作業ツールなどとの挟まれ事故がリスクとして存在している。作業員の安全確保と確認が重要事項になっていたが、これまで客観的な安全評価手段が存在しなかったのが悩み事だった。指ダミーを使うことで、現地現物で簡単にリスクを評価できる」と語った。
パナソニック側で指ダミーの開発を担当したのは、製品の安全性や信頼性評価を担当する「プロダクト解析センター」である。同センターではダミー人形やバーチャル技術を用いて人間のけがを未然に防ぐ評価技術の開発を進めている。2015年度までは家電機器や住宅設備使用時の事故を想定した評価技術開発が主だったが、2016年度からは対象をロボット分野にまで拡張して、ロボットとの安全な共存、協働を実現するための技術開発も行っている。
指ダミー以外にも、ロボット分野での開発実績としては、人間とロボットの接触事故における安全性を評価する「Pain-Sensingダミー」がある。「痛み」を感じる人体構造を再現した上肢部のダミーで、ロボット接触時の表面痛(皮膚直下の神経によるもの)と深部痛(骨上方の神経によるもの)を部位ごとに客観的に測定できるようにする。
これまでロボット接触時のけがの度合いを、「無傷」「軽度」「中程度」「重度」と段階別に評価できるツールはなかった。Pain-Sensingダミーを用いることで、「痛み」を指標にして「無傷」と「軽微」を区別して評価できるようになる。
今後の開発展望について、パナソニック プロダクト解析センター 安全・EMCソリューション部の渡邊竜司氏「指ダミーは指の安全性確保へのニーズが高かったことから開発を進めたが、今後は足や腕などの安全性を評価するツールについても開発を検討していきたい」と語った。
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