パナソニック オートモーティブ社は2019年9月19日、横浜市で記者説明会を開き、自動車での5G(第5世代移動通信)採用に向けて横浜市の拠点に大型電波暗室を構築したと発表した。
パナソニック オートモーティブ社は2019年9月19日、横浜市で記者説明会を開き、自動車での5G(第5世代移動通信)採用に向けて横浜市の拠点に大型電波暗室を構築したと発表した。自動車1台に対して半球面上に全方位で無線性能を評価できる広さを持ち、サイズは「国内最大級」(パナソニック)だという。
実際の車両にアンテナを搭載すると車体の金属材料で電波が減衰するが、5Gの場合は高周波化によって電波減衰が従来以上に大きくなる。これにより、車両のデザインや使用する材料が確定した後にアンテナ技術だけで十分な通信性能を達成するのは難しくなるという。パナソニックは大型電波暗室を使って、車両デザインの初期段階から自動車メーカーと通信機能を共同開発することにより、安定して信頼性の高い5G通信をインフォテインメントシステムやテレマティクスコントロールユニット、車載アンテナに取り入れる。5Gを採用したV2X(路車間、車車間、歩車間通信)にも力を入れていく。
大型電波暗室は横浜市都筑区にあるパナソニックのプラットフォーム開発センターに設けた。施設はパナソニック SNエバリュエーションテクノロジーが所有する。電波暗室の有効内寸は縦29×横21×高さ9mで、車両を複数台並べた車車間通信も評価できる。また、大型電波暗室には4tトラックほどの車両サイズまでであれば進入することができる。また、信号機などのインフラを置くことも可能だという。
この大型電波暗室は、これまで基地局など10m法のEMC(電磁環境両立性)評価を求められる製品向けに使うための十分な広さがあり、今回は自動車向けに改修した。この他にも、パナソニックはAV機器など向けに使ってきた電波暗室を車載用に転換し、自動車関連で高まる電波暗室の需要に対応している。
自動車と5Gに合わせて、新たに電波暗室内に高さ8mの疑似基地局タワーを設置した。対応する周波数帯は700M〜9GHzと28GHzで、測定半径は0〜7m。疑似基地局タワーが水平方向と上下方向に移動し、測定対象のクルマを載せたターンテーブルが360度回転することにより、所要時間2分程度で全方位から測定する。測定角度は水平角0〜359度、仰角0〜90度で、分解能は1度ステップとなる。最大200の周波数ポイントでの同時測定が可能で、効率よく評価を行えるという。路面や建物による電波の反射を模擬する環境も作ることができるという。
5Gの特徴の1つである大容量通信は、MIMO技術(Multiple Input Multiple Output、複数のアンテナで送受信すること)や、特定の方向に電波を集中的に向けることで通信品質を向上させるビームフォーミング技術によって実現される。そのため、今回報道向けに公開した大型電波暗室もMIMOアンテナやビームフォーミングアンテナの通信性能評価に対応している。
MIMO技術の性能は、全方位で測定したアンテナのデータを基に、電波の反射や干渉、遅延といった伝搬環境や、通信機の送信電力や受信感度といった条件をシミュレーションで付加することで評価する。5Gアンテナを車両に搭載する場合、4Gでは2本だったアンテナが4本に増える。そのアンテナを車両にどう配置するか、車両としてどれだけスループット性能が出せるかを検証する。シミュレーションは携帯電話機やスマートフォンに携わり、ノウハウを持つアンテナ技術者などが担当する。
パナソニック オートモーティブ社 開発本部 プラットフォーム開発センター 所長の和田浩美氏は通信技術の検討を車両デザインの初期段階から開始する重要性について次のように語った。
「クルマのデザインの感覚と、アンテナにとって望ましい条件は一致しない。デザイン的には左右対称、もしくは中央にアンテナを置きたくなるが、これは電波の干渉が最も起きる場所だ。また、アンテナを小さく薄く、目立たなくしようという傾向も電波には不利になる。電波にとって不利な条件を機器単体で克服するには、コスト面でも技術面でも限界がある。コネクテッドカーや自動運転車にどんな機能を持たせるのか、コンセプトやデザインを決める時に通信についても一体となって早い段階で議論させていただきたい。新しい技術は『本当に使い物になるのか』と懐疑的にみられる時期もあるが、それさえ乗り越えれば広く普及し、新しいビジネスや価値観を生み出す。5Gも、通信の信頼性や安定性を確保して自動車に搭載できれば利便性が伝わり、普及が進むだろう」(和田氏)
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