高度な自動運転の実現や、センサーでは認知しきれない範囲の危険を回避するため、V2Xの重要度が増している。しかし、自動車業界は携帯電話の通信網を使うか、境域通信を用いるかで2つに分かれている。各社の最新の取り組みをまとめた。
「故障車両まであと130m」。離れた場所で停止している故障車両までの距離を1m単位で把握し、接近中のドライバーに注意を促す――。
こうした場面を想定して、携帯電話の通信網を使った車車間(V2V)、路車間(V2I)、歩車間(V2P)通信「セルラーV2X(C-V2X)」を使った実証実験が真っ盛りだ。量産車でのC-V2Xの実装が、2020年にも始まるためだ。実車を使った実証実験の中では、従来のDSRC(狭域通信:Dedicated Short Range Communications)とC-V2Xの性能の比較も進められている。
C-V2Xを推進する企業の1つであるノキア(Nokia)のCar2X事業責任者 Uwe Puetzschler氏は、C-V2XがDSRCよりも優れていると強調して語る。「DSRCとC-V2X、2つの技術が共存するのは自動車業界にとっていい傾向ではない。1台のクルマに複数の技術を載せるのは複雑になる。1つの技術で1台のクルマをカバーすることはシンプルで、コストを減らすなど開発上もメリットがある」(Puetzschler氏)。
5GAAメンバーとDSRCを採用する自動車メーカー、それぞれの最新の取り組みを紹介する。
C-V2Xの旗振り役は、ドイツの自動車メーカー3社と通信、半導体企業5社で2016年9月に設立した5Gオートモーティブアソシエーション(5GAA)だ。5GAAは将来的に第5世代移動通信(5G)をV2Xに活用することを目指すが、当面は4G LTEを使う方針だ。4G LTEによるC-V2Xは、2017年3月に国際標準化団体の3GPPが発表したRelease 14の機能として標準化が完了している。
5GAAの発足から半年以上が過ぎた2017年5月の段階では日本のサプライヤーや通信キャリアが複数参加していたものの、日系自動車メーカーは参加していなかった。そこから一転し、2018年1月に日産自動車は、コンチネンタル・オートモーティブ・ジャパンやエリクソン、NTTドコモ、OKI、クアルコム(Qualcomm Technologies)と協力し、「日本初」(日産自動車)となるC-V2Xの実証実験を行うことを発表した。ホンダも5GAAに参加している。
コンチネンタルは、報道向けに千葉県旭市のテストコースを公開し、日産自動車など6社で取り組む実証実験の一部を紹介した。クルマとネットワークをつなぐ「LTE Uu」、クルマとクルマ、歩行者などをつなぐための「LTE PC5」の、それぞれの規格について検証を進めている。テストコースでは、基地局を経由して故障車両までの距離を知らせるデモンストレーションを体験できた。故障車両の500m手前から警告を発し、近づくにつれて2段階で注意喚起を行った。
日産自動車など6社が行う実証実験は、次のような役割分担となっている。コンチネンタルはクアルコムのセルラーV2Xチップセットを搭載した「Qualcomm C-V2X Reference Design」を用いて、実証実験用のコネクテッドカーシステムを日産自動車の車両に構築。日産自動車は技術を評価する指標を含めたユースケースやテストシナリオを定めた。OKIは、Qualcomm C-V2X Reference Designを用いたV2I向けインフラの構築を、NTTドコモはLTE-Advanced(LTE-A)ネットワークとV2Nのアプリケーションの提供を担当した。
ノキアのPuetzschler氏によれば、こうしたさまざまな業種の企業が参加したC-V2Xの実証実験は欧州や米国の公道でも活発に行われている。四輪車だけでなく二輪車も参加したり、欧州3カ国の国境を通過する道路が使われたりしているという。5GAAの発起人であるダイムラー(Daimler)やBMWの他、フォード(Ford Motor)、フィアットクライスラー(FCA)、ボッシュ(Robert Bosch)やコンチネンタル(Continental)などが実証実験に参加。公道試験は当然、政府や自治体の支援の下で行われている。中国もC-V2Xを導入する方針だ。
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