リコーは、九州大学と共同開発した、薄型かつ軽量でフィルム形状の有機薄膜太陽電池のサンプル提供を2021年9月に開始する。低照度の屋内や屋外の日陰など中照度の環境下まで高効率に発電できることが特徴。IoTセンサーを常時稼働させるためのフレキシブル環境発電デバイスとして自立型電源向けに展開する。
リコーは2021年8月18日、九州大学と共同開発した、薄型かつ軽量でフィルム形状の有機薄膜太陽電池(OPV:Organic Photo Voltaic cell)のサンプル提供を同年9月に開始すると発表した。約200lx(ルクス)と低照度の屋内から、約1万lxになる屋外の日陰など中照度の環境下まで高効率に発電できることを特徴とする。IoT(モノのインターネット)社会の進展に伴って飛躍的に増加が予想される各種センサーを常時稼働させるためのフレキシブル環境発電デバイスとして自立型電源向けに展開する。
新たに開発した有機薄膜太陽電池は、リコーと九州大学 稲盛フロンティア研究センター 教授の安田琢麿氏の研究室が2013年から進めてきた共同研究の成果となる。安田研究室の高性能有機半導体設計/合成技術と、リコーが長年複合機の開発で培ってきた有機感光体の材料技術を組み合わせた。具体的には、光電変換層(P型有機半導体)の分子構造や材料組成などを精密に制御することで、低照度から中照度でも高い電圧と高い電流が得られる有機光電変換系の開発に成功した。さらに、有機デバイス設計において、中間層(バッファー層)材料の最適化や界面制御に基づいて、さらなる高効率化と高耐久化を実現している。
41×47mmサイズの試作デバイスの光電変換性能は、低照度(約200lx)で最大出力84μW、最大出力動作電圧3.3V、最大出力動作電流25μA。中照度(約1万lx)で最大出力4200μW、最大出力動作電圧3.5V、最大出力動作電流1200μA。この広い照度域において、光電変換効率11〜12%を確保できている。また、有機薄膜太陽電池の課題である、太陽光など高照度環境下での耐久性についても、疑似太陽光を用いた約10万lxの長時間暴露試験で高出力を維持することを確認した。
太陽電池は、セルの一部に陰がかかる「部分陰」の発生によって急激な出力低下することも課題の一つに挙げられることが多い。今回開発した有機薄膜太陽電池は部分陰による急激な出力低下が起こらないことも特徴となっている。
想定する主な用途は、移動型、携帯型のウェアラブル端末やビーコンなどの小型電子機器の他、トンネル内や橋梁の裏側に設置される社会インフラのモニタリング用デバイス、公共交通の混雑状況監視センサーなどを挙げている。
リコーは、2020年1月に固体型色素増感太陽電池の「RICOH EH DSSCシリーズ」を発表している。DSSCシリーズは、屋内照明などの微弱な光で効率よく発電でき、−30〜60℃の幅広い温度帯で利用できる、屋内用機器に適した自立型電源となっている。一方、このDSSCシリーズに対して、より薄く、より軽く、より広い照度範囲で使いたいという要望もあった。今回開発した有機薄膜太陽電池は、これらの要望に応えるものだ。
なお、今回の研究開発は、JST(科学技術振興機構)の「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(本格型)」「有機エナジーハーベスティングデバイスの機能革新と実用化技術開発」の支援を受けている。
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