京都大学アイセムスは、がん細胞内に電子を発生させてDNAを効率よく切断し、細胞死を誘導する方法を開発した。アインシュタインが提唱した「光電効果」を利用するこの方法は、DNAに直接的に作用するため、放射線治療の効率向上が期待できる。
京都大学アイセムス(物質―細胞統合システム拠点)は2021年7月9日、がん細胞内に電子を発生させてDNAを効率よく切断し、細胞死を誘導する方法を開発したと発表した。
今回開発した手法は、アインシュタインが提唱した、金属原子などに光を当てると電子を放出する「光電効果」をがん細胞内で再現したものだ。光電効果が発生すると、原子内で連鎖反応が起こり、多数の電子が放出される。
ナノ粒子は、がん細胞に効率よく取り込まれ、細胞核の近くにとどまる特徴がある。そこで研究グループは、ヨウ素を含ませた、生体内で分解する多孔性シリカナノ粒子を合成。多細胞3次元モデルであるがんスフェロイドに、ナノ粒子を取り込ませてからX線照射をすると、DNAの二重鎖が切断され細胞死が起きることを確認した。
さらに、X線のエネルギーを変化させてDNAの二重鎖切断の影響を調べたところ、33.2keVで最も効果的に切断が生じることが明らかとなり、最適効果をもたらすためのX線のエネルギーを調整できることが示された。
がん治療における放射線治療は、細胞内分子のイオン化を引き起こすことで、DNAを切断してがん細胞の死を誘導する。従来の手法では、X線が直接DNAに作用することは少なく、細胞内の水分子がイオン化して発生する活性酸素によってDNAが切断される間接的な効果が多い。今回開発した方法はDNAのすぐそばで電子を発生させてDNAを切断するという直接的な効果を得られるため、酸素が少ないがんの中心部でも細胞死を誘導でき、放射線治療の効率向上が期待できる。
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