以上、“見て触って分かるデライト”と“使って初めて分かるデライト”の評価を行った。次に、図13に示す手順で2つのデライトを満足させる解を抽出する。
図14に、“重量と早く熱くなる度合い”および“重量と均一に熱くなる度合い”をグラフ化したものを示す。これらを基に、2つのデライトを満足させるフライパンの材料候補としてガラス、セラミック、アルミニウムの3つを選定した。一般のフライパンがアルミニウム製であることを考えると、この結果は妥当といえる。一方、フライパンに適した材料とされる銅は均一度に優れているものの速熱度で劣り、重量も大きいことから候補から外した。図14の結果が想定外であったのは、通常フライパンに使用されていないガラス、セラミックが上位となったことである。
表1に2つのデライトを満足させる3種類の材料の特性を示す。ここでガラスに注目してみると、強度面ではアルミニウムに劣るものの、フライパンとしての実現可能性がゼロではないということが分かる。むしろ、ガラス固有の透過性が新たな価値となる可能性もある。このように、先入観を排除して評価を行うことにより、通常では考え付かないような解を提示できるのが本手法の特徴である。
今回は、フライパンを例に2つのデライトを評価する方法を紹介した。2つのデライト、すなわち“見て触って分かるデライト”と“使って初めて分かるデライト”の重みは商品によって異なる。
図15に、この2つのデライトに関する重みの違いを連載第1回で取り扱った5種類の商品を例に示す。
ボールペンはお店で実際に見て触って使うことができるので“見て触って分かるデライト”で評価可能と考える。ただ、この場合も紙の材質との関係もあるので、実際に使用している紙で試してみるのがいい。一方、ノートPCはもちろん見て触って絞り込みを行うが、計算能力、見やすさ、使いやすさなどは、実際に使ってみないと分からないであろう。フライパンはノートPCに近いと考えられる。良い製品を、良い商品として世に送り出すためには、デライトには2つの側面があることを認識し、この2つのデザインを可能な限り製品開発段階で評価することである。
次回は、デライトデザインの新たな取り組みとして、「1DCAE」の考え方に基づくデライトデザイン(リバース⇒価値⇒具現化)について紹介する。 (次回へ続く)
本成果の一部は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものである。
大富浩一/山崎美稀/福江高志/井上全人(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。デライトデザインもその一つである。
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