“使って初めて分かるデライト”の評価は、伝熱シミュレーションによりを行うことにする。シミュレーションを行うに当たっては、フライパンの材料を選定する必要がある。そこで、先入観を排除してAshbyマップ(材料の物性値を両軸にとってグラフ化したもの/参考文献[1])により候補材料を選定した。伝熱シミュレーションはフライパンを一次元非定常問題(軸対象問題)(1Dモデル)に置き換え、オープンソースのCAEである「OpenModelica」(参考文献[2])を用いて実行した。OpenModelicaは、モデル表現言語「Modelica」(参考文献[3])に準拠している。伝熱シミュレーションの結果より、フライパンの機能・性能を定義し、Ashbyマップを拡張した拡張型Ashbyマップによる材料選定を行った。以上の手順を図7に示す。以下、各ステップを詳細に説明する。
候補材料は、伝熱特性を両軸としたAshbyマップから図8に示す8種類の材料を選定した。極力先入観を排除してフライパンに採用可能な材料を幅広く選定した。
図9に一次元非定常熱回路網のモデリング例を示す。熱回路網は、伝熱現象を分かりやすく表現することのできるモデル化手法の1つである。伝熱における熱量、温度差と、熱の伝わりにくさに相当する熱抵抗は、電気回路における電流、電圧、電気抵抗と相似性(アナロジー)を持つ。このことを用いて、電気回路における「オームの法則」や「キルヒホッフの法則」を応用することで、伝熱現象を電気回路と等価に表現できる。
図9には、加熱したフライパンから周囲までの伝熱プロセスを最も単純な形で示している。コンロやIHで加熱されたフライパンの中を、熱は熱伝導で通過する。その上で、表面から輻射(ふくしゃ)や自然対流で周囲に放熱される。一方で、フライパンの内部には、フライパンの材料の熱容量に基づいて熱が蓄えられ、温度上昇に影響する。これを基に、図10にModelicaで構築した機能・性能評価のための“フライパンの1Dモデル”を示す。
Modelicaにも、熱回路網に準じた熱回路の基本的な現象に関してはライブラリとして定義されており、これを図10のようにグラフィカルに配置、結合することにより、計算実行可能となる。モデルが複雑になっても図9に示すモデルを結合していくことにより、大きなモデルが容易に構築できることが最大の利点である。フライパンを「底面」と「ふち」に分けてモデル化している。モデリングの詳細については参考文献[4]を参考にされたい。
図10のモデルでシミュレーションを実行した例を図11に示す。7カ所の評価点における温度の時間変化を示している。ここで、フライパンの伝熱特性の目標は“早く均一に熱くなること”と考える。これを“均一に熱くなる”と“早く熱くなる”に分けて考え、これらをフライパンの機能、性能とし、シミュレーション結果から定義することを試みる。すなわち、図11に示すように、定常状態(点火して25分後)5カ所の温度の分散を「均一に熱くなる度合い」と定義(均一度)、10分後の中央部の上昇温度を「早く熱くなる度合い」と定義(速熱度)した。
図12に8種類の候補材料を、2つの機能・性能指標を両軸としたグラフ上にプロットした結果(拡張型Ashbyマップ)を示す。図中の大きい矢印が機能・性能面から見た目指すべき方向である。この図から、ガラスが最もよく、次にセラミック(セラミックス)、その他は均一度と速熱度が相反する関係にあることが分かる。
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