「オリジンベースドアートシンキング」とは何か? 今回はデザインシンキングやロジカルシンキングとの違いを交えながら理解を深めていきます。また京セラをアートシンキングの角度から考察。まとめとして、日本のオリジンとモノづくりの関係性について紹介します。
【前編】に引き続き、「オリジンベースドアートシンキング」を立体的に解説していきます。まず、大手企業の新規事業開発の現場でよく話題に上る「デザインシンキング」と、ビジネスシーンで欠かせない「ロジカルシンキング」と併せて、オリジンベースドアートシンキングの理解を深めていきます。そして、モノづくり企業として成功を収めている京セラの創業者である稲盛和夫氏をアートシンキングの角度から考察。最後に筆者自身のデンマーク留学の経験や考察を踏まえて、日本のオリジンとモノづくりの関係性について紹介します。
オリジンベースドアートシンキングとは何でしょうか。一言でいうと、
芸術家ではない人たちでも、芸術家のように独創的で感動を与えるようなアウトプットが行える思考のプロセス
です。
しかし、多くの人にとってアートシンキング以前に、「アート」自体が少し遠い存在であるかと思いますので、アートの定義をデザインと比較しながら考えてみます。
アートとは何か? デザインとは何か? この問いに対して少し考えてみてください。あなたは「アート」といわれて何が思い浮かびますか? また「デザイン」といわれたときにどんな風景を想像しますか? ひょっとしたら、この抽象的な問いに難しさを感じる人もいるかもしれませんが、これを普段なじみのあるものに置き換えて考えてみると理解が進むはずです。
今回は“算数”に置き換えてみましょう。+、−、×、÷という4つの選択肢から、アートとデザイン、それぞれ何が該当するかを考えてください。
答えは「アートは、+(足し算)」「デザインは、−(引き算)」です。
※空白部クリックで解答表示。
ここに真四角の机があります。この机が保有する機能として必要最低限のものが備わっているならば、それはデザインです。これに対し、防水や耐熱など作り手が重要視するポイントが機能として存在し、特定の人にとってそれが無駄な機能だと思えるようなものが、アートに当たります。
「○○思考」「○○シンキング」という言葉をよく聞きますが、これは最終的なアウトプットの話ではなく“プロセス”の話です。“道具”と言い換えてもよいかもしれません。そのため、フェーズや状況に応じて思考回路を使い分けることが有効です。
現在はデザインシンキングの認知度が高まり、研修を取り入れて、実際の活用に向けたチャレンジを行っている企業も増えています。デザインシンキングは、あるアイデアをブラッシュアップするタイミングで非常に有効です。なぜなら、デザインは引き算の特性を持っており、アイデアの重要な要素と不要な要素を嗅ぎ分け、削いで、よりスマートなものへと進化させることができるからです。
ですが、引き算していく、削いでいく前の状態をどれくらい意識しているでしょうか。その原型を作っていく“0⇒1”の行為こそ、足し算、つまりアートシンキングなのです。そして、その原型を作るために必要なのが、【前編】で解説した“オリジン”です。オリジンベースドアートシンキングで、オリジンを基にアイデアの原型を作り、デザインシンキング的に不要な要素を取り除きながらブラッシュアップするというのが美しい流れです。
このフェーズまで到達すると、プロジェクトとして軌道に乗せやすい状況になります。そうすると、情報を整理して戦略を立て、より効率的に物事を進めていく必要性が出てきます。このタイミングにおいて有効な思考のフレームワークが、コンサルティングファームなどで活用されているロジカルシンキングです。ある程度先行きの想像も可能なので、仮説を立てることができます。
まとめると、
が有効となります。
前述の通り、アートという行為は“オリジンを起点とした思考プロセス”の話です。そのため、一見アートと思われるような絵画であっても、オリジンを基にしていないアウトプット、つまりコピーに近いプロセスをたどったものはアートとは呼びづらく、独創性が高まりにくいため、コモディティ化して淘汰(とうた)されてしまいます。逆にいうと、オリジンを発見し、これを起点とすることで誰でもアートシンキングを実践できます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.