続いて、今回の相談内容(図1上段のケース1)にもあった“深いリブ”のショートショットについて説明します。図4は、リブの本来ほしい形状とその金型を示したものです。
このとき、樹脂が流れ込む部分はただ空気が入っている状態なので、そこに樹脂が流れ込んでいくと、空気の逃げ場がなくなってしまいます(図5)。つまり、この逃げ場を失った空気が原因となって、樹脂が金型の奥まで到達できずにショートショットが発生するのです。
このようなショートショットの発生を避けるためには、深くて細いリブにしないことが一番なのですが、逆にリブを太くすると今度は「ヒケ」などの別の不具合の原因にもなるため注意が必要です。
製品設計側で、極力不具合が出ないような設計をした後は、金型で対策を施します。その対策として、空気がたまる部分の金型を別部品にして、その隙間から空気を逃がすという方法が考えられます(図6)。ちなみに、隙間といっても金型の精度は非常に高いため、ここから樹脂が漏れ出ることはなく、空気だけが逃げていきます。
次に、図1下段のケース2の対策についても考えてみましょう。図7【左】に示すようなエッジのある製品形状の場合、金型内部を流れる樹脂の流動スピードが速過ぎると、角部に樹脂が完全に充填される前に、樹脂が先に流れていってしまうため、角部にショートショットが発生する可能性があります。
製品設計として対策するのであれば、エッジを避けて形状をRにすると樹脂の流れがスムーズになり、今回のようなショートショットは解消されます(図7【右】)。もし、どうしてもエッジが必要な場合には、成形時の樹脂の流動スピードを遅くすることで、金型の角部まで樹脂が行き渡りやすくなります。ただし、樹脂の流動スピードを遅くすると、他の部分で不具合が発生する可能性もあるため、全体のバランスを見ながら成形条件を決める必要があります。
ここまで紹介してきた通り、製品設計、金型設計、成形条件と、各パートでショートショットの発生を回避する方法があります。ただ、成形段階まで来てしまうと、製品や金型を修正するのにそれなりの手間とコストが発生しますので、まずは製品設計と金型設計で対策を検討することをオススメします。 (次回へ続く)
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。株式会社モールドテック代表取締役(2代目)。「作りたい」を「作れる」にする設計屋として、デザインと設計を軸にアイデアや現品に基づくデータ製作から製造手配まで、製品開発全体のディレクションを行っている。文房具好きが高じて立ち上げた町工場参加型プロダクトブランド「factionery」では、第27回 日本文具大賞 機能部門 優秀賞を受賞している。
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