設計力を高める! 3Dスキャナーを活用したリバースエンジニアリングによるDXデジファブ技術を設計業務でどう生かす?(12)(2/2 ページ)

» 2021年05月24日 10時00分 公開
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4.3D CAD面の生成

 作成した面構成や断面線を使用し、3D CADデータを生成していきます。ここでは、リバースエンジニアリングにおける3D CAD面の生成手法について、主な3種類のアプローチを紹介します。

4-1.自動面貼りタイプ

 点群データから曲率で境界線を作成し、パッチワークで面を構成します。

 自動なので複雑な曲面も短時間で作成できます。ただし、自動のため面構成が3D CADデータと大きく異なることがほとんどです。データサイズも大きくなり、面の流れもキレイではないため、後工程での編集や活用が困難です。自動面貼りタイプは、フィレット面やピン角の作成などが苦手な傾向にあります。人体やフィギュアなど、有機的な形状を3Dスキャンして3D CADデータ化する際に便利な手法です。

4-2.手動面貼りタイプ

 境界線や面構成を手動で作成し、測定データに沿って曲面を作成します。

 後工程で扱いやすい高品質な曲面を、3D CADに近い面構成で作成できます。ただし、手動での作業が多いためデータ作成に時間がかかるのが難点です。金型や金型で成形される部品など、高精度で高品質な3D CADデータを作成したい場合に用います。面の流れがキレイなので、CAMで加工ツールパスを作成する際に作業しやすくなるなど、後工程でのモノづくりを円滑に進めることができます。

4-3.ソリッドモデリングタイプ

 測定データを参照して、3D CADのようにモデリングを行います。3D CADデータと同様に扱うことができます。測定データが欠落していても、ある程度の要素があれば、断面を作成し、線を手動でつなぎ合わせるなどして3D CADデータを作成可能です。

 3D CADと同品質のデータを作成できるため、3D CADでの編集が容易に行えます。ただし、幾何形状で作成していくので複雑な形状の再現精度は低い傾向にあります。機械部品や治具などソリッドデータで作れるモデルや、3D CADデータ化した後に設計変更を行いたい場合などに用いられます。3D Systemsの「Geomagic Design X」では、作成した作業履歴を3D CADソフトに出力して連携させることもできます。

リバースエンジニアリングにおける主な3D CAD面の生成手法 図4 リバースエンジニアリングにおける主な3D CAD面の生成手法 [クリックで拡大]

 その他、「ボクセルモデラー」という手法もあります。3D Systemsの「Geomagic Freeform」ではペン型3D触覚デバイスを使って、画面内の仮想粘土(ボクセル)を削ったり、伸ばしたりといったアナログ的かつ直感的なアプローチによって、3D CADでは表現し切れない複雑形状のモデリングが行えます。

3D Systemsの「Geomagic Freeform」 図5 3D Systemsの「Geomagic Freeform」 ※出典:3D Systems [クリックで拡大]

 リバースエンジニアリングのソフトウェアですが、専用のリバースエンジニアリングソフトウェアだけでなく、3D CADの中にリバースエンジニアリング機能が搭載されているものもあります。また、今回紹介した全ての機能が搭載されているソフトウェアもあれば、自動面貼りのみ、手動面貼りのみ、自動は得意だけど手動は機能が少ないなど、ソフトウェアによって違いがあります。そのため、3D CADデータ作成後の目的を明確にして、リバースエンジニアリングソフトウェアを選定する必要があります。

 加えて、リバースエンジニアリングを自社で行う場合には、3Dスキャナー(ハードウェア)からソフトウェアまで、環境整備に多大な費用がかかりますので、必要頻度によっては、外部のサービスを活用することも視野に入れた方がよいでしょう。

リバースエンジニアリングによるDX

 人がノギスなどで計測するには時間がかかり、自由曲面のような計測が困難なものでも、3Dスキャナーを活用したリバースエンジニアリングによって時間短縮や品質向上が期待できます。3Dスキャナーによるリバースエンジニアリングを、これまでの設計手法を変える1つの革新的なアプローチとして捉えると、これはもう立派なモノづくりにおける「デジタルトランスフォーメーション(DX)」といえるのではないでしょうか。

 今回は、部品や製品を3Dスキャンしてのリバースエンジニアリングについて紹介しましたが、工場内を3Dスキャンして3Dデータ化し、そこに新しく設置する設備を設計したり、生産ラインのレイアウトを検討したりなど、工場や設備設計の世界でも役立てることが可能です。さらに、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)技術などを組み合わせれば、その可能性はさらに広がります。他にも、伝統工芸品や土器などの重要文化財を3Dスキャンして、アナログとデジタルを融合させるなど、その活用用途は無数にあります。

 リバースエンジニアリングは、製品を調べ、改良を検討し、より良い製品を生み出す手法です。法律上でもリバースエンジニアリングは合法とされています(ただし、リバースエンジニアリングから得た情報を基に製品をコピーしたら違法になります)。3Dスキャナーを活用したリバースエンジニアリングを設計で利用できる場面は限られるかもしれませんが、うまく使用することで、開発にかかる時間やコストを抑え、短期間で低価格な新製品を設計できるかもしれません。設計開発において良いアイデアが思い浮かばずに困ったときには、リバースエンジニアリングを思い出してみてください。何か良い解決案が得られるかもしれません。 (次回へ続く

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筆者プロフィール

小原照記(おばら てるき)

いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。


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