3Dプリンタや3Dスキャナー、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。第10回は、3Dスキャン後に必要となる基本的なデータ処理作業について詳しく解説する。
前回は「いまさら聞けない 3Dスキャナーの選定基準」というテーマで、3Dスキャナーの方式や仕組み、性能について説明しました。今回は、3Dスキャン後のデータ処理の基本的な作業について紹介します。3Dスキャナーで形状データを取得しても、そのままの状態では設計や検査などに活用できません。データの編集作業が必要となるのです。
3Dスキャナーで取得したばかりのデータの状態は、X、Y、Zの3次元座標を持った“点データ”となります。その点データの集まりを「点群」と呼びます。今回は、3Dスキャン後の処理として、点群データの処理と点群データからメッシュデータへの変換、変換したメッシュデータの編集までの作業を紹介していきます。
3Dスキャナーで取得したデータの活用方法については、前々回の記事で説明した通りです。例えば、検査で活用したり、3Dプリントしたり、CAEを行ったり、3D CADデータ化して設計に役立てたりといった具合です。このような活用を行うには、3Dスキャナーで取得したデータをきちんと処理して次の工程に渡す必要があります(図1)。
今回は、図1の右側に示した代表的な活用方法を想定し、3Dスキャン後の基本的なデータ処理作業(点群データの処理、メッシュデータの処理)について詳しく見ていきます。
(1)不要な部分の削除
(2)合成・間引き
(3)メッシュデータ化
(4)スムージング(平滑化)
(5)メッシュ分割(リメッシュ)
(6)穴埋め
(7)ブリッジ(橋渡し)
(8)面の表裏を反転
(9)要素の抽出・境界の編集
(10)自動クリーニング(修復)
3Dスキャンする際、測定物を載せていたテーブルや周辺物も一緒に点データ化されてしまったり、余計なノイズがデータとして入ってしまったりすることがあります。こうした不要なデータを削除していきます。具体的な作業としては、削除したいところを選択して消していったり、残したい部分を選択しておき、それ以外の余計なものを一度に削除したりします。
3Dスキャナーで取得したデータは、何枚も撮影した複数の写真が重なり合っている状態といえます。複数の角度から撮影して取得したデータを合成していくことで、1つの部品形状の3Dデータが作られていきます。写真を例にすると、合成する際に同じ画像の部分を認識し、それらを位置合わせして、つなぎ合わせていくイメージです。
3Dスキャンによって部品形状を全てデータ化したい場合、まず形状の表側を測定し、その後、裏側を測定するなど、複数の測定結果を後から合成することがあります。合成作業そのものは、3Dスキャンをしながら行う場合と、3Dスキャン後に行う場合とがあります。また、合成作業を手動で行うものと、自動で行うものとがあり、使用する3Dスキャナーの機種やソフトウェア、あるいは測定する対象物や状況によっても変わってきます。
合成がうまくいかないと、精度の良いデータは作れません。基本的にはソフト上で同じ箇所を認識して位置を合わせますが、位置合わせが難しい形状の場合だと、うまくいかずに精度が落ちてしまうことがあります。これを防ぐために、3Dスキャナーの中には“マーカー”を使用して後から合成しやすくするものがあります(前回の記事参照)。
以上の説明からも分かる通り、後から合成する場合、前に撮影した箇所が入るように角度を変えながら3Dスキャンしなければなりません。そのため、どうしても重なり合う部分に多くの点データが集まってしまいます。このままでは扱いも悪く、データも重くなるため、不要な点を間引いて、点密度を均一化してあげる必要があります。
(1)と(2)の処理が終わったら、取得した点と点を直線で結び、三角形にして面を貼ったSTLデータや、多角面の集合で形成されるポリゴンデータなどのメッシュデータを作成していきます。「作成する」といっても、多くの場合は[エクスポート(出力)]ボタンを押すことで簡単に変換してくれます。ただし、3Dスキャンしたデータ量によっては、数分から数十分の処理時間が必要になります。
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