セルロースナノファイバーのコーティング膜による短絡抑制は以下のようなプロセスで実現できている。
そもそも「電子機器が水に弱い」ことは広く知られているが、これは回路に水が付着すると短絡が発生するためだ。しかし、この水が電気を通さない純水(水道水などのようにアルカリイオンや塩素イオンなどを含まない)だとしても短絡は発生する。これは水が電気を通しているのではなく、電極間で電極材料のイオンマイグレーションが発生し、樹状析出を起こして電極間がつながって短絡を発生させているのだ。
これに対して、セルロースナノファイバーのコーティング膜が存在する電極間に水が付着すると、セルロースナノファイバーがこの水を吸って多少ほぐれた状態となり、繊維1本1本の端部はカルボキシル基(COO−)となって負に帯電する。この状態で電圧を印加すると、負に帯電したセルロースナノファイバーが陽極側に電気泳動し、短絡の原因となる樹状析出を起こす電極材料のイオン(銅電極の場合は銅イオン)をセルロースナノファイバーが捕捉し強固なゲル膜になる。
これまで、一般的な電子機器の水ぬれ故障対策として採用されてきたのが疎水性ポリマーによる封止コーティングだ。しかし、回路基板が水にぬれないようにしっかり固めるため、何らかの原因でコーティングが損傷すると、そこから水が浸潤してしまい樹状析出による短絡の発生は抑えられない。春日氏は「セルロースナノファイバーのコーティングの短絡抑制メカニズムは、既存技術とは異なり、たとえコーティングが損傷しても短絡を抑制してくれる」と強調する。
実際に、近年市場が拡大しつつあるウェアラブル端末やヘルスケアデバイスは、人の身体に装着するため屈曲性や伸縮性が求められており、疎水性ポリマーによる封止コーティングではこれらの要求を満たせない可能性がある。しかし、電子機器の故障は人の生命に関わる可能性もあるため、水ぬれ故障対策への高い安全性も必要であり、セルロースナノファイバーのコーティングを活用する余地は大きい。また、既存の疎水性ポリマーによる封止コーティングと組み合わせれば、短絡抑制メカニズムが異なることもあって、より過酷な環境における機能安全性の確保にもつなげられる。
この他、能木氏が中心になって開発を進めている“土に還る”ナノペーパーIoT(モノのインターネット)デバイス向けに、生分解性を損なわない一方で、水ぬれによる短絡を抑制する機能を付加することもできるという。
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