大阪大学 産業科学研究所が、水ぬれによる電子回路の短絡故障を長時間抑制できるセルロースナノファイバーを用いたコーティング技術について説明。一般的な疎水性ポリマーによる封止コーティングと異なり、水に触れたセルロースナノファイバーがゲル化して陽極側に凝集し短絡を抑制する効果があり、新たな回路保護膜として活用できる可能性がある。
大阪大学 産業科学研究所は2021年4月8日、東京都内で会見を開き、水ぬれによる電子回路の短絡故障を長時間抑制できる、木材由来ナノ繊維(セルロースナノファイバー)を用いたコーティング技術について説明した。一般的な疎水性ポリマーによる封止コーティングと異なり、水に触れたセルロースナノファイバーがゲル化して陽極側に凝集し短絡を抑制する効果があることから、新たな回路保護膜として活用できる可能性がある。木材由来素材であるため生分解性を有しており、分解しない封止コーティング剤と比べて環境に優しいという特性もある。
今回発表した技術は、大阪大学 産業科学研究所 特別研究員の春日貴章氏と教授の能木雅也氏らの研究グループが進めているもの。吸水性を高めた繊維幅3〜4nmのセルロースナノファイバーを水中に分散した液体を電子回路基板に塗布し、乾燥することでコーティング膜を形成できる。ガラス基板上の銅電極間をこのコーティング膜で覆った後、基板を水没させてから電圧を印加したところ、銅電極間での短絡を24時間以上起こさないことを確認した。
コーティング膜の厚さは約5μmで、1μmでも薄くしても効果が得られるという。セルロースナノファイバーの材料としては、市販品と同等のものを用いていることもあり特段高価にはならない見通し。
なお、セルロースナノファイバーのコーティング膜の動作は、基板材料はガラスの他、フレキシブル基板に用いられるポリイミド、一般的なプリント基板に用いられるエポキシガラスで、電極材料は銅の他、銀、はんだで確認している。
同技術の研究は、JST(科学技術振興機構)の未来社会創造事業の中で、セルロースナノファイバーを展開する第一工業製薬との共同で進めている段階。社会実装については「次のステージで実現したい」(能木氏)としている。主な用途としては、ウェアラブル端末やヘルスケアデバイスなどのさらなる安全性向上などを想定しているが、既存の疎水性ポリマーによる封止コーティングとの組み合わせで、万が一の事態でも動作を止めないようにする機能安全向けでの展開も見込めそうだ。
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