豊田喜一郎氏の言葉が息づく豊田中央研究所、目指す「2つのE」とはバーチャルTECHNO-FRONTIER(2/2 ページ)

» 2021年03月30日 12時30分 公開
[長町基MONOist]
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日本の研究開発最前線での課題

 菊池氏は1999年に客員研究員として豊田中央研究所に9カ月間勤務した。この時、菊池氏は「高専や学部、修士の研究員が大半を占めており、博士課程を終えた研究員もポストドクター(博士研究員、ポスドク)未経験者であり、R&Dのリニアモデルを信奉し、プロフェッショナルとしてのリサーチャーはOJTで行う」ということに驚いたという。

 そして「日本の研究員は優秀で、待遇も米国並かそれ以上だが、私の眼から見ると研究者としてのプロが少ないと感じた」とする。米国では2〜4年ポスドクをやって研究のマネジメントの仕方などを学んでからでないと研究所には入れない。研究の運営および、ファイナンスの方法やサポートする人を動かす方法などの訓練を受けた人が研究所に雇用される。研究所の運営方針も明快で、リサーチャー、エンジニア、スタッフの全ての役割も決まっており、昇格も待遇も異なってくる。「米国が常にイノベーティブな姿勢を失わない理由はここにあると考えていた」(菊池氏)。

 一方、日本の研究所は研究者と研究補助が同じ権利と義務を持つ研究所員として働く仕組みとなっており、アジャイルな研究遂行が難しい。日本は全ての面で平均的に優秀だが、研究者の「たまご」「ひよこ」「にわとり」が混在しており、研究目標のための仕組み構築が困難である。しかも自己申告と年功序列型の報酬体系であり、高レベルの研究者の育成が厳しいシステムとなっている。これは「トップ研究者がいないとイノベーションが起こらない」という欠点につながる。

研究開発に必要なビジョン

 菊池氏はこれらの体制整備を進める一方で、豊田中央研究所が持つ強みとして、ビジョンを挙げる。「トヨタは国産の自動車産業を興すという明確な目的を持っていた。それを実現させる手段(Enabler)であり、それを可能にするためにどのような研究を行わなければいけないのか。そのためには未完成な、新たに勃興した(Emerging)技術も積極活用するという『2つのE』を明快に持っていた」と菊池氏は述べている。つまり、研究はビジョン実現のためにあるもので、研究者はそれを実現する主体となるという考えだ。

 「トヨタグループでは、豊田佐吉氏も豊田喜一郎氏もそのような研究者であり、発明家でもあった。誰かの技術を当てにせず必要な技術は自ら創るものであると考えていた」と菊池氏は強調する。さらに、菊池氏は豊田喜一郎氏の「人のやったものをそのまま輸入する必要もあるが、苦心してそこまでたどり着いた者にはそれをより良く進歩させる力がある」という言葉を紹介。「『さまざまなテーマに沿っていろいろ作ってみて、その後で基礎研究に戻ってもいい。何にも創ったことが無い者が、基礎研究をやるというのは意味がない』ということを根幹としている」と研究所が果たすべき役割について述べている。

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