古河電気工業(古河電工)は2020年4月、社内のデジタル化の取り組みの成果を社内で横串を通して広げていく部署として、研究開発本部の傘下にデジタルイノベーションセンターを設立した。センター長を務める野村剛彦氏に、同センターの設立経緯や取り組みなどについて聞いた。
国内の製造業におけるIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の活用は、ここ数年大きな課題となっている。ただし、モノづくりの現場では生産効率の向上や予防保全、検査自動化などの取り組みで一定の成果が出つつあるものの、設計開発プロセスやサービス提供といった他の分野への展開はなかなか進んでいないのが実情だ。
光ファイバーやワイヤハーネス、自動車用部品、リチウムイオン電池材料などを手掛ける古河電気工業(以下、古河電工)でも、工場におけるIoTやAIの活用が先行しているが、それらを含めたデジタル化の取り組みの成果について社内で横串を通して広げていく部署として、2020年4月に研究開発本部の傘下にデジタルイノベーションセンターを設立した。
古河電工のデジタルイノベーションセンターではどのような取り組みを進めているのだろうか。同センターの設立の経緯などを含めて、センター長を務める野村剛彦氏に話を聞いた。
ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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MONOist まずはデジタルイノベーションセンターの設立の経緯についてお聞かせください。
野村剛彦氏(以下、野村氏) 当社は、地球環境を守り、安全・安心・快適な生活を実現するため、情報/エネルギー/モビリティが融合した社会基盤を創る「古河電工グループ ビジョン2030」を掲げている。その達成に向けて、デジタル技術によるモノづくりの革新に加えて、融合領域での新事業の創出が必要になるが、そのためのデジタル技術力の強化について、社内を横断する形で推進するのがデジタルイノベーションセンターの役割である。モノづくりの進化と、コトづくりの創出に加えて、それらに求められるソフトウェア基盤の構築にも取り組んでいる。
デジタルイノベーションセンターの中核となっているのが、研究開発本部 解析センターなどで行われてきたデータサイエンスへの取り組みだ。従来行ってきた品質・信頼性に関する統計解析に加えて、2015年ごろからはLasso回帰やベイズ推定を用いた要因分析/因果解析、決定木やランダムフォレストを用いた予測などに取り組んできた。2017年ごろからは、ディープラーニングを用いた予測や画像処理なども手掛けるようになった。2017年1月には、これらのデータサイエンスを用いたAIやMI(マテリアルズインフォマティクス)を担当するAI応用課が発足した。
デジタルイノベーションセンターは、このAI応用課と、工場におけるIoTやAIの活用を推進するものづくり改革本部のメンバー、戦略本部のICT担当などが一体となることで、デジタル技術力の強化に向けて社内を横串で通して活動できる組織になっている。現在のメンバーは30〜40人ほどになる。
MONOist デジタルイノベーションセンターではどのような活動を進めていますか。
野村氏 起点になるのは社会課題の抽出だ。例えば、コロナ禍に合わせた業務のリモート化などはその代表例になるだろう。現在は、この社会課題の抽出を基に、社内にある自動車・エレクトロニクス研究所や情報通信・エネルギー研究所などの研究所組織や、顧客のニーズを見いだす営業本部などとの共創によるコトづくりに向けた活動を強化している。このコトづくりにおいて、デジタルイノベーションセンターの役割はPoC(概念実証)のイネーブラー(支え手)となることだ。また、ソフトウェア基盤となるデジタル基盤ガイドラインの整備も進めている。これらの他、米国サンノゼにあるオープンイノベーション拠点であるSVIL(Silicon Valley Innovation Laboratories, Furukawa Electric)を“探索の出島”とした活動も行っている。
もちろん、これまでも進んでいたモノづくり関連の取り組みも拡大させている。例えば、各工場でそれぞれ進めていたIoT案件を集約した上で、拠点間や部門間で連携できるようにするなどしている。
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