特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

デンソーが推進するリーンオートメーションとその人材育成ロボデックス

ロボットなどの最新技術を紹介する「第5回 ロボデックス」(2021年1月20〜22日、東京ビッグサイト)の特別講演にデンソー 生産革新センター 担当部長の河野恵介氏がオンラインで登壇。「リーンオートメーションで働く現場をどう変えるか、その期待と課題」をテーマに講演を行った。

» 2021年03月08日 11時00分 公開
[長町基MONOist]

 ロボットなどの最新技術を紹介する「第5回 ロボデックス」(2021年1月20〜22日、東京ビッグサイト)の特別講演にデンソー 生産革新センター 担当部長の河野恵介氏がオンラインで登壇。「リーンオートメーションで働く現場をどう変えるか、その期待と課題」をテーマに講演を行った。

 デンソーでは、長年取り組んできた生産合理化を踏まえて、シンプルで投資効率の高い自動化を図ったリーンオートメーション(無駄を徹底排除した経営効率の高い自動生産システム)を推進している。この取り組みによる働く現場への期待と課題について、ロボットユーザーである製造業の立場から提言した。

1985年からロボット活用を開始

 デンソーは、生産システムの改善に創業期から積極的に取り組んできた。1980〜1990年代には、製品や顧客、生産地が多様化する中で、ロボットや生産情報システムを活用してフレキシブルな生産システムを構築するなど、生産合理化を推進している。一貫してリーンオートメーション、コンカレントエンジニアリング、全員参加の改善などをコンセプトに歩んでおり、これまで累計2万台以上のロボットを導入し、組み立て、搬送、加工などの工程で使用している。

 1985年にロボット活用拡大プロジェクトを開始し、社内工場への本格導入を開始した。デンソーではこの年をロボット元年と位置付けている。そして、さまざまな工程の合理化に活用するとともに、製品の多様化に柔軟に対応できるよう自動化ラインの開発を進めてきた。社内向けの自動化では、専用機や自動化装置を社内の工機部門で製作している。ロボットについては同部門で使用し、その問題点を洗い出し、改良を重ねてきた。海外工場でも作業のムダ取り改善と簡易自動化をアドオンしながら段階的に生産性を上げる活動を「シンプルアドオン活動」と呼び、タイ、ベトナム、インドネシア、インドなど各拠点で広げてきた。現地でこうした活動を行えるようにポイントとなる人材育成にも力を注いでいるという。

 ただ、自動化が遅れている領域もあり、今後はこれらの領域の自動化なども含めさまざまな課題を解決していく必要がある。製造現場を取り巻く環境の変化は加速しており、従来以上に製品変化へのスピーディーな対応、労働人口の減少や労務費上昇への対応などが今後さらに求められている。単純作業を機械化し、人はより付加価値が高い仕事へシフトするという方向へ働き方改革を進める必要もある。

3つの現場の自動化を進める人材育成

 その点において製造業では「生産作業の現場」「自動化システムを構築するエンジニアリングの現場」「生産をライフサイクルで保守・運用・改善する現場」の3つの現場について、先進技術を活用し再検討することが重要となってきた。

 「生産作業の現場」では、自動化を拡大するインテリジェント機能の開発が大きな課題となっている。これらを開発するためには、前さばきから自動化までトータルでリーンオートメーションを実践できる人材の育成が必要となっている。「自動化システムを構築するエンジニアリングの現場」では、モジュール設備技術の進化が課題となり、エンジニアリングプラットフォーム確立とデジタルモノづくりの人材育成が望まれる。「生産をライフサイクルで保守・運用・改善する現場」では、必要スキルを軽減する技術として信頼性・耐久性の向上、故障の予知検知、簡単操作・トラブル復帰支援などを挙げ、そのためにはロボットを使いこなし自主保全できる現場人材が必要となる。

 これらを推進するためにいずれもボトルネックとなっているのは「人材」である。製造現場特有の環境を理解しつつ、先進技術についても知見を持つ人材の育成が急務だといえる。「リーンオートメーションを普及するためには産官学が連携して企業を超えた人材育成の協力が重要だ」と河野氏は訴えている。

人材育成への取り組み

 人材育成面において、デンソーでは2021年、愛知県安城市の高棚製作所内に「Lean Automation(リーンオートメーション)スクール」の開講を計画している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、開講を延期しているが、状況に合わせて開始する予定だ。研修は6日間にわたって行い、内容は自動化のムダ取りと作業改善の基礎、既存ラインの部分的自動化、自動化に適した製品設計、自動化ラインの実際(実習・グループ討論)自動化の構想検討(実習・グループ討論)、自動化設備の保全活動とIoT活用、設備総合効率の改善など講義だけでなく、実習・グループ討論なども交えて、より実践的なものとなっている。

 また、2018年にタイにおいて経済産業省が推進する「日ASEAN新産業創出実証事業」の1つとして、「Connected Industriesにおけるリーンオートメーションシステムインテグレーター(LASI)の育成検証」を受託。タイ国内で生産設備やFA機器などを取り扱うシステムインテグレーターの育成を推進するなど、海外での産官協力での人材育成の取り組みも進めている。

 自動車はConnected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる新しい領域で技術革新が進む中、クルマの概念が大きく変わろうとしている。それに伴い、多様性や不確実性が一層高まり、製品の素材変化もさらに激しくなる。こうした「作るもの」「素材」の変化に柔軟に対応するためには「作り方」の進化が必要である。製品が変わっても素早く立ち上げ、多様に対応できる生産システムが望まれており「これらの実現にも人材を含め、ロボットメーカーと製造業を含めた産官学の連携が重要となるだろう」と河野氏は語っている。

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