デンソーがタイで取り組む製造現場のAI活用スマートファクトリー

「第4回 スマート工場 EXPO〜IoT/AI/FAによる製造革新展〜」の特別講演にデンソーインターナショナルアジアのバイスプレジデントである末松正夫氏が登壇し、「製造AIによる生産性向上」をテーマに、タイの製造現場におけるAIを活用した生産性向上の取り組みを紹介した。

» 2020年04月10日 11時00分 公開
[長町基MONOist]

 「第4回 スマート工場 EXPO〜IoT/AI/FAによる製造革新展〜」(2020年2月12〜14日、東京ビッグサイト)の特別講演にデンソー インターナショナル アジアのバイスプレジデントである末松正夫氏が登壇し、「製造AIによる生産性向上」をテーマに、タイの製造現場におけるAI(人工知能)を活用した生産性向上の取り組みを紹介した。

人件費が高騰するASEANの製造現場

 自動車業界ではCASE(Connected、Autonomous、Shared&Services、Electrification)などの新しい概念の登場で、メーカー各社の方向性も大きな変化が巻き起こっている。そうした中で自動車の総合部品メーカーであるデンソーでもさまざまな取り組みを進めている。

 デンソーはカーエアコン、パワートレインシステム、ハイブリッド車用システム製品、モビリティシステム、ミリ波レーダーや各種センサーの開発や生産を行っている。その他でも非車載分野として産業用ロボットなどの開発や製造も行っている。このロボットや自動化機器を組み合わせた自動化ソリューションもビジネス化を図っており、AIについてもこれらの生産性向上を目指したソリューションの1つとして、ビジネス化の可能性を探っている。

 その中でデンソーでは、製造現場におけるAIを活用した生産性向上への取り組みを日本だけでなくタイの製造現場でも展開し、成果を生み出しつつあるという。

 タイなどASEAN諸国では人件費が急速に上昇している。これらはASEANにおけるモノづくりの課題となってきている。以前は安い人件費を背景に生産拡大を図っていたが、人件費が上昇すれば地域的な競争力は低下する。ASEANで展開するメーカー各社は人件費を抑えるためにさまざまな取り組みを行っているが、限界に近づきつつあるという。そのため、人手に頼らず、AIやIoT(モノのインターネット)を駆使することで

人件費高騰に対応するプロジェクトを開始した。

photo デンソー インターナショナル アジアのバイスプレジデントである末松正夫氏

 末松氏は「工場での生産を支えているのは『人』と『設備』である。この2つの要素を正確に把握し管理することができれば工場の動き全体をコントロールできる。生産性の向上を目指すには、この『人』と『設備』の作業をどのように効率化し、そこに自動化を当てはめるかという観点が重要だ」と語る。生産性改善を行うためには、トヨタ生産方式における「7つの無駄(作りすぎ、手持ち、運搬、加工、在庫、動作、不良)」を取り除くことが重要で、これらをどのように自動化するのかがポイントとなる。

 デンソーでは、プロジェクトを開始するのに当たり、AIを使う条件として「日本主導で行わない」「品質に影響を与えない」ということを決めたという。その上で、生産性向上や物流改善などの領域で活用を進めた。

 生産性に関しては、まず人と設備の動きを一日中ストップウォッチなどで調査、分析し、ムダな動きや設備の不稼働を見える化することから始めたという。これらで状況を把握しつつ、人手での計測作業を自動化し、改善にかける時間を増やすことで効率の向上につなげた。

 さらに、これらの人作業の見える化に対し、人が関与するのではなく、AIに任せるという取り組みを進めている。デンソー本社ではモーションキャプチャーと機械学習でこれらの作業を行っているが、タイの拠点ではAIのスタートアップ企業と協業し骨格推定とディープラーニングの組み合わせで実施している。ただ、「AIを導入してから結果が出るまでは約1年かかった」(末松氏)とその効果を得るまでは時間がかかるようだ。さらに「時間がかかるということはお金もかかる。AI導入のコストを下げるというのも今後の展開の課題だ」と末松氏は述べている。

AI導入のポイント

 今回のAI導入のポイントとして、末松氏は「まずAIの活用とその周辺で必要になることに慣れることが必要だった。動作の確認をするために画像をどうやってうまく撮影するのかという点や、動作をデータ化してその意味付けを行うのかというAIを活用する以前にやらなければならないことがある」と語る。「AIによる分析については専門家に任せる」(末松氏)としているが、AIはより多数のデータを教え込むことで、正確になっていく。さらに、生産性向上に向けた条件の選定は現場を良く知る現地スタッフでなければできない。「アドテーション(テキストや音声、画像などあらゆる形態のデータにタグを付ける作業)は現場を知っている人が行わなければ、良い結果を得ることができない。関係する多くの人を巻き込んで行うことが重要だ」と末松氏は語っている。今後は、より汎用的なソリューション構築を目指すという。

 また、設備の生産性改善に向けては自動化を推進。具体的にタイでは、自動化プロジェクトを推進する。多くのグローバル企業では、産業用ロボットを全面的に採用し、製造工程を全て自動化しようという動きがあるが、デンソーでは「無駄な作業までロボットを導入して自動化する必要はない。まずは工程を改善し無駄な作業をなくすということが重要だ」と末松氏は強調する。そのためには最初から大掛かりなロボットシステムを導入する必要はなく「簡易的なシステムでも貢献できる」(末松氏)という。

 末松氏はAI導入に関するポイントとして「AIが何でも解決できるわけではない。工夫次第で発展性はあるが、決して簡単ではないことを理解することが必要だ。また、導入に際しては何が求める条件なのかを明確化することが必要だ」と語っている。さらに「全てが思い通りにはいかない。そうした状況を受け入れる余裕も必要になるだろ」(末松氏)としている。

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