さらにこれらの不適切検査が長期間にわたり継続された要因としても3つの原因を挙げている。1つ目が「関与者にとって不適切行為を公にする判断が難しくなっていたこと」である。日立金属による不適切検査は、多岐な製品におよび、さらに古いものでは40年近くの長期間にわたり継続されてきたものである。その結果、関与者は社会や顧客、自社への影響の大きさを危惧し、不適切行為を公にする判断が難しくなっていた。
2つ目が「不適切行為に対する問題意識を持ちにくい状態となっていたこと」が挙げられている。日立金属本社や製造拠点の幹部の一部が、不適切行為が行われていたことを把握していたにもかかわらずこれを是認しており、こうした状態で不適切行為が継続されていた。さらに、品質保証関連のITシステムにおいても、検査結果の書き換えが可能なシステムがあった。そのため、不適切行為について関与者が「これらが問題である」という意識を持ちにくくなっていた。
3つ目が「品質コンプライアンス・リスクに対するモニタリング機能が弱く、不適切行為が判明しにくい状態となっていたこと」だ。各事業体の独立性や閉鎖性があり、品質保証組織の独立性の不足していたため、品質コンプライアンスリスクに対するモニタリング機能が十分に働かず、不適切行為や不適切行為発生の可能性が問題として捕捉されにくくなっていた。これが不適切な検査が続いた要因となった。
これらを受け、再発防止策としては「意識改革」「基盤強化」「プロセス改善」「モニタリング強化」の4つのポイントで取り組む。
「意識改革」としては、経営幹部によるメッセージ発信や品質に関係するタウンホールミーティングなどの継続的な実施により、品質理解を深めることと合わせ、人事評価や各種社内制度とも連動させて実効的な変革を進める。また、今回の問題として、社員の一部に「品質に問題がないと判断できる場合には顧客と取り決めた仕様を満たさない製品を出荷することもやむを得ない」という品質コンプライアンスに関する誤った認識が見られたことから、品質保証関連規則の再整備や品質コンプライアンス教育の強化を行う。
「基盤強化」としては、品質保証体制のガバナンスを強化する。2020年6月1日に品質専任の役員として最高品質責任者(CQO)を新設した。CQOは日立金属グループの品質について全責任を負い、品質保証本部以下の体制を整備、指揮しつつ、製造拠点などから独立性をもって製品やサービスの品質を保証する役割とする。併せて、品質保証部門の独立性を確保するため、各事業部門に属していた品質保証部員を品質保証本部の所属とし、組織上の独立性を確保した。また、2021年4月から各子会社の品質保証部門長を日立金属の品質保証本部に兼務出向する体制とし、品質保証本部による品質保証ガバナンスを強化する。さらに、品質リスクが生まれた場合に、CQOおよび品質保証本部長が製品の出荷中止を命じる権限と責任があることを社内規則で明確化したという。
「プロセス改善」としては、異常処置、カタログ作成、デザインレビューを含む開発段階から量産への移行、変更管理などの各品質管理プロセスに関連する明確な全社細則を作成し周知徹底する。加えて、新規受注時の決定プロセスの強化を進める。今回の不正の要因として、工程能力や生産能力に見合わない条件で受注したことがあったため、顧客との仕様取り決めのガイドラインを作成し、周知を徹底する。また、各拠点において安定して量産可能な工程能力、生産能力を継続的に確認、改善していく体制を構築する。また、営業部門についても、品質管理における役割を明確化・再徹底することで品質管理強化を図る。
さらに、人為的な検査結果の書き換えなどを防ぐITシステム構築などにも取り組む。人的関与を排除し、検査データの適切な生成や管理を自動的に行えるシステムを約100億円を投資して構築する。2024年ごろまでに各製造拠点にて順次導入を進める。また、体制の整備や運用開始までの期間については、整合性監査の頻度やサンプル数を増やす。
「モニタリング強化」については、営業・開発・設計・製造における内部統制上の第1のディフェンスラインに加え、第2、第3のディフェンスラインを設ける。具体的には、第2のディフェンスラインとしては、品質保証本部による内部監査(整合性監査)の見直しを行い改善策を実行する。第3のディフェンスラインとしては、監査室における品質保証本部に対する監査の実施を行う。また、2020年10月1日から、内部通報制度を新たに構築している。
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