AIレジレスソリューションで店舗純利益を約3倍に、富士通がZippinと協業開始スマートリテール

» 2020年12月09日 14時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 富士通は2020年12月8日、同社が国内総代理店となり、スマートフォンアプリやAIカメラなどを組み合わせて小売り店舗をレジレス化する、Zippinが開発したAIソリューションを2021年3月から販売すると発表した。Zippinのソリューションに富士通の顔認証など各種生体認証技術を組み合わせて、顧客本人の認証精度向上を狙う。

富士通の生体認証技術で本人確認

 Zippinは米国のサンフランシスコに本社を構える、AI無人店舗ソリューションなどを展開するスタートアップだ。AIソリューションを導入した店舗は、既に米国やブラジル、ロシア、日本など世界中に存在する。NTTドコモベンチャーズや野村総合研究所なども同社に出資する。富士通とは、2020年2〜5月にかけて富士通新川崎テクノロジースクエア内で開業した「ローソン富士通新川崎TS レジレス店」(神奈川県川崎市)での実証実験を共同で行い、AIソリューションと各種生体認証技術の融合に向けた取り組みを進めてきた。

Zippinのイメージ動画

 今回発表したAIソリューションを導入することで、小売り店舗を訪れた顧客は、欲しい商品を手に取ってそのまま退店するだけで、財布などを取り出す手間なく商品決済まで終えられるようになる。顧客は入店時に、あらかじめ店舗入り口にある入場ゲートで本人確認を済ませておく必要がある。

 本人確認の方法は、専用のスマートフォンアプリによるものと、富士通の開発した手のひら静脈認証技術や顔認証技術の組み合わせによるものの2通りがある。アプリの場合は顧客が自身のスマートフォンにインストールしておき、入店時に画面を専用ゲートにかざす。手のひら静脈認証技術など生体認証技術を利用する場合、顧客は専用ゲートに設置された専用端末に手をかざし、同じく端末のカメラで顔認証を済ませた上で入店する。生体認証技術による本人確認は「世界最高水準の認証精度」(富士通)を実現しているという。

 入店後は体形や衣服などの情報を基に、店内のAIカメラが顧客を自動的にトラッキングし、棚に設置した重量センサーの情報と組み合わせて、顧客が棚から手に取った商品と顧客情報を正確に把握し、ひも付けする。手に取った商品はそのままバッグやポケットに入れても問題ない。退店時に自動的に決済が行われて、専用アプリに電子レシートが配信される。

ZippinのAIソリューションを用いたレジレス決済の流れ*出典:Zippin[クリックして拡大]

人件費低減、ボトルネック解消効果も

Zippinのクリシュナ・モツクリ氏

 Zippin CEOのクリシュナ・モツクリ氏はAI無人店舗ソリューションの導入効果について次のように説明する。

 「第1の効果は人件費の低減だ。加えて、レジの待機列が無くなる分、ボトルネックが解消されて顧客回転率が向上する。店舗における純利益は、3倍程度にまで高まるだろう。棚の状況をカメラで把握することで、棚出し業務の合理化も可能だ。商品を手に取った時点で来店客とのひも付けが行われるので、万引きによる商品損失を防ぐ効果も期待できる」(モツクリ氏)

富士通の石川裕美氏

 富士通 リテールビジネス本部 DXビジネス事業部 シニアディレクターの石川裕美氏は、AIソリューションの導入効果について「小売店舗の経営者は、店舗業務の30%を占めるとされるレジ業務が完全に削減できる。小売店舗の顧客にとっては、店内でスマホを手に持つ必要も、レジ待ちだけでなく、清算も必要ないというシンプルな購買体験が得られる。また、今回のソリューションは小売店舗だけでなく、工場や病院、大学、映画館など幅広い業種に適用できるものと考えている」と説明した。

Zippinによる新しい購買体験を富士通は構想する*出典:Zippin[クリックして拡大]

 AIソリューションの導入コストは店舗の広さや入場者数によって変動する。仮に30m2の店舗面積に導入する場合、「イニシャルコストは1000万〜1500万円、ランニングコストは数十万円程度になる」(石川氏)という。

 将来的には富士通が販売代理元となって、欧州など海外地域でのAIソリューションの展開も検討している。

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