このようなITモダナイゼーションの動きは、医療機器・医薬品関連規制を所管する食品医薬品局(FDA)でも本格化している。
2019年9月18日、FDAは、「技術モダナイゼーション行動計画(TMAP)」(関連情報)を公表した。TMAPは、FDAの公衆衛生ミッションを進歩させるために、コンピュータハードウェア、ソフトウェア、データ、分析など、技術利用のモダナイゼーションのために、FDAが実行に移す短期的計画を示したものであり、以下の3要素から構成される。
これらのうち、FDAの技術インフラストラクチャのモダナイゼーションでは、技術モダナイゼーション計画の最優先課題であり、堅牢なインフラストラクチャ、クラウド最前線の計画、明確で効率的な外部データインタフェース、サイバーセキュリティへのフォーカスが含まれるとしている。具体的には、以下のようなアクションを掲げている。
次に、規制のミッションを支援する技術製品を開発するFDAの機能の強化では、規制に関する意思決定を周知させるために、FDAが効率的に新しいソリューションを評価・分析できるような、最高クラスの技術ソリューションを生成する技術「製品」開発機能を構築するとしている。また、特定の規制の「ユースケース」に関わる一連の技術ツールを構築するとしている。具体的には、以下のようなアクションを掲げている。
さらに、ステークホルダーとのコミュニケーションと協働では、ステークホルダーとの直接関与によるFDAの技術モダナイゼーションの告知啓発を行うとしている。また、外部ステークホルダー向けの明確な技術インタフェースが、予測可能性を広げ、バイオ医療エコシステムにわたるイノベーションを誘発させるとしている。そして、政府機関のパートナーとの協働により、規制の一貫性と効率性を保証する一方、技術セクターとの対話を進めるべきであるとしている。その上で、以下のようなアクションを掲げている。
最後に、FDAは、今後の方向性として、以下のような質問を投げかけている。
このような医療機器・医薬品関連規制当局のDXへの取り組みは、米国に限ったことではない。例えば、2020年7月3日、欧州医薬品庁(EMA)は、「2025年に向けた欧州医薬品庁ネットワーク戦略」(関連情報)を公表している。その中で、EMAは、以下の通り、6つの優先領域を掲げている。
これらのうち、「データ分析、デジタルツールとDX」では、以下の通り、5つの戦略的目標を掲げている。
今後、世界各国の規制当局がDXを推進して実績を上げていけば、ステークホルダーとして製品ライフサイクル全体に関わる医療機器・医薬品企業も、人手と紙に依存した開発・規制対応業務プロセスから脱却し、デジタル化に対応せざるを得ない。
特に、日本国内で後手に回りがちな、個人情報保護やサイバーセキュリティ対策は、欧米規制当局によるDXプロジェクトの最優先事項として組み込まれているので、注意が必要だ。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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