米国規制当局のDXが医療イノベーションに及ぼす影響海外医療技術トレンド(65)(3/3 ページ)

» 2020年11月13日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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ITモダナイゼーション行動計画を実行に移すFDA

 このようなITモダナイゼーションの動きは、医療機器・医薬品関連規制を所管する食品医薬品局(FDA)でも本格化している。

 2019年9月18日、FDAは、「技術モダナイゼーション行動計画(TMAP)」(関連情報)を公表した。TMAPは、FDAの公衆衛生ミッションを進歩させるために、コンピュータハードウェア、ソフトウェア、データ、分析など、技術利用のモダナイゼーションのために、FDAが実行に移す短期的計画を示したものであり、以下の3要素から構成される。

  1. FDAの技術インフラストラクチャのモダナイゼーション
  2. 規制のミッションを支援する技術製品を開発するFDAの機能の強化
  3. システムを越えた相互運用性を有し、消費者と患者に価値を提供する技術的進歩をけん引するための、ステークホルダーとのコミュニケーションと協働

 これらのうち、FDAの技術インフラストラクチャのモダナイゼーションでは、技術モダナイゼーション計画の最優先課題であり、堅牢なインフラストラクチャ、クラウド最前線の計画、明確で効率的な外部データインタフェース、サイバーセキュリティへのフォーカスが含まれるとしている。具体的には、以下のようなアクションを掲げている。

  • クラウド戦略
  • ビジネス特有のニーズ向けに簡素化されたソフトウェア開発機能(DevOps)
  • アプリケーションプログラミングインタフェース(API)、標準規格およびその他の交換メカニズムやツール
  • データのクリーンナップとクラウド環境への移植
  • as a serviceモデルの継続的採用
  • サイバーセキュリティ・エクセレンスへの継続的な専念
  • 科学計算のエンタープライズIT計画への統合
  • エンタープライズレベルの技術組織である情報管理技術室(OIMT)内およびFDA全体にわたる組織的アラインメント
  • オペレーショナル・エクセレンスと複数年に渡る技術計画
  • 費用抑制と重複排除
  • エンタープライズITガバナンス
  • 適切な場合、レガシーシステムおよびソフトウェアアプリケーションの廃止

 次に、規制のミッションを支援する技術製品を開発するFDAの機能の強化では、規制に関する意思決定を周知させるために、FDAが効率的に新しいソリューションを評価・分析できるような、最高クラスの技術ソリューションを生成する技術「製品」開発機能を構築するとしている。また、特定の規制の「ユースケース」に関わる一連の技術ツールを構築するとしている。具体的には、以下のようなアクションを掲げている。

  • FDAの製品開発機能の構築
  • ユースケースの開発

 さらに、ステークホルダーとのコミュニケーションと協働では、ステークホルダーとの直接関与によるFDAの技術モダナイゼーションの告知啓発を行うとしている。また、外部ステークホルダー向けの明確な技術インタフェースが、予測可能性を広げ、バイオ医療エコシステムにわたるイノベーションを誘発させるとしている。そして、政府機関のパートナーとの協働により、規制の一貫性と効率性を保証する一方、技術セクターとの対話を進めるべきであるとしている。その上で、以下のようなアクションを掲げている。

  • 公的なステークホルダーとの直接関与
  • 医療製品開発や食中毒発生への対応におけるデータ/技術イノベーターの関与を促進する一連のツールキットの特定
  • 政府機関との協働

 最後に、FDAは、今後の方向性として、以下のような質問を投げかけている。

  • どのようにしてFDAは、政府機関の規制に関する意思決定が高品質のデータにより周知されることを保証するか
  • どのようにしてFDAは、政府機関を越えた効率的なデータ利用とデータ管理を促進するか
  • どのようにしてFDAは、セキュリティの高いデータ/IT環境への継続的なコミットメントを持続するか

世界に広がる規制当局のDX

 このような医療機器・医薬品関連規制当局のDXへの取り組みは、米国に限ったことではない。例えば、2020年7月3日、欧州医薬品庁(EMA)は、「2025年に向けた欧州医薬品庁ネットワーク戦略」(関連情報)を公表している。その中で、EMAは、以下の通り、6つの優先領域を掲げている。

  • 医薬品の入手可能性とアクセスしやすさ
  • データ分析、デジタルツールとDX
  • イノベーション
  • 薬剤耐性およびその他の拡大する健康への脅威
  • サプライチェーンの課題
  • ネットワークの持続可能性とオペレーショナル・エクセレンス

 これらのうち、「データ分析、デジタルツールとDX」では、以下の通り、5つの戦略的目標を掲げている。

  1. 日常的な医療データへのアクセスと分析を可能にして、対象となるデータの標準化を促進する
  2. ネットワーク内に、統計、疫学、リアルワールドデータ、高度分析など、持続可能性のある機能や容量を構築する
  3. 現在の規制フレームワークの範囲内で動的な規制および政策の学習を促進する
  4. データセキュリティおよび倫理的配慮がネットワーク内のデータガバナンスに組み込まれていることを保証する
  5. 動物用医薬品向けのデータ分析の利用およびニーズをマッピングし、欧州経済領域(EEA)内の国境を越えて、簡素化された手法を支援する

 今後、世界各国の規制当局がDXを推進して実績を上げていけば、ステークホルダーとして製品ライフサイクル全体に関わる医療機器・医薬品企業も、人手と紙に依存した開発・規制対応業務プロセスから脱却し、デジタル化に対応せざるを得ない。

 特に、日本国内で後手に回りがちな、個人情報保護やサイバーセキュリティ対策は、欧米規制当局によるDXプロジェクトの最優先事項として組み込まれているので、注意が必要だ。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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