現在、日本の自動車メーカーの中ではトヨタが独り勝ちの状態といえます。大手3社のうち、日産は赤字、ホンダも四輪車は利益率が低く、二輪車事業に支えられています。自動車メーカーの中でトヨタの強さは群を抜いています。
「サプライヤーが赤字で苦しんでいるのだから、トヨタが価格を改訂して救うべき」という意見もあるでしょう。ただ、トヨタも決して利益率が高いわけではありません(2020年4〜9月期の営業利益率は4.6%でした)。一律に部品の価格を上げることは難しいですし、部品価格を上げたことによって収益性が悪化し、さらに新車販売が減るようなことになれば、より苦しむことになるのはサプライヤーです。
トヨタがコロナ禍でもいち早く生産を回復させ、国内生産300万台を死守する姿勢を変えていないのは、社内はもちろん、仕入れ先であるサプライヤー、そしてその先で働く人たちの仕事を作るためでもあります。2020年6月11日に行われたトヨタ株主総会では、株主からはこんな質問が出ました。「サプライヤーや販売店はそこまで利益を伸ばせていない。『トヨタ独り勝ち』の状態に対して各社が不満を持っていないか。トヨタとしての考え方を教えてほしい」というものです。
このときの社長の豊田章男氏の回答は、トヨタのサプライヤーへの姿勢を表していると思います。「1人も勝たなかったらこの国はいったいどうなるんでしょうか。1人でも勝たないとこのインダストリーは支えられない。1人勝った会社がその『勝ち』を何に使うのか。今のトヨタは自分のためではなく、世の中のため、トヨタを普段から応援頂いている方々のために、その強さを使いたいと思っている」と豊田氏は答えました。
「1人でも勝たなければ……」という言葉、自動車産業で働いている身からすると本当にそうだと思います。実際、コロナ禍で先が見えない中で、トヨタがいち早く通期の見通しを示し、また上方修正したことについて、サプライヤーに勤める立場としては先行きに安心感がわきました。自動車メーカーが総倒れだったら、と考えると恐ろしいものがあります。
自社で徹底的に原価を作り込み、そのノウハウから得た高い価格査定力で、長期に安定して供給できる価格をサプライヤーと交渉する。トヨタの強みはそこにあります。確かに、トヨタが求める価格や品質はサプライヤーにとって非常に厳しいものですし、下請けになるほど、厳しさは人に対して皺寄せが行き、労働環境は悪化させる傾向にあります。一方で、その厳しさはサプライヤーの生産性を高め、世界で戦える競争力を育てる要因でもありますし、トヨタとの取引が雇用を産んでいることも事実です。
トヨタの厳しい要求を「下請けたたき」と一方的に負の面だけで捉えるのではなく、「生産性や競争力の向上」という正の面があることも理解し、多くの仕事や雇用を生み出している事も含めて評価することが、重要なのだと思います。
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