また、3Dプリンタ活用の期待の方向性の1つとして、パーソナライゼーションが挙げられる。このパーソナライゼーションによって生み出される(けん引される)イノベーションの現状について、SOLIZE Products 代表取締役社長の田中瑞樹氏は2つの事例を紹介した。
1つ目は、SOLIZEグループによるフェイスシールド用フレームの製造だ。「SOLIZEグループもCOVID-19の感染拡大に伴う日本国内の医療器具不足を受け、HPの3Dプリンタを用いてフェイスシールド用フレームを製造し、医療機関などに無償提供を行った。その際、まず何をしたのかというと、当社のエンジニアが医療機関のキーパーソンにヒアリングを行い、現場が求めるフェイスシールドを実現するための情報を集め、設計に落とし込んでいった。こうした現場が求める必要な情報を集め、設計を行い、瞬時に製造に生かすことができる。これは、パーソナライゼーションによって生み出されたイノベーションの1つの形といえる」(田中氏)。
2つ目の事例は、ベンチャー企業のOUIが開発する眼科疾患を診断するための医療機器「Smart Eye Camera」の製作支援だ。田中氏は「これはスマートフォンに装着して使用する医療用デバイスで、その外装部品の試作、最終製品の製造をHPの3Dプリンタで行った。このケースでは、医療用デバイスとしての強度や精度の実現だけでなく、金型レスによる製品開発のメリットが大きかった」と振り返る。
SOLIZE Productsの事例から分かる通り、3Dプリンタのポテンシャルを生かし、イノベーション創出につなげていくためには、業種・業界の垣根を越えたコラボレーション、エコシステムが重要な役割を果たす。これについて、日産自動車の南部氏は、自動車産業においてもパートナー企業とのコラボレーション、協働・共創が重要になるとし、「一緒に問題を提起し、解決策を導き出すことが求められる。こうした取り組みが、イノベーティブな製品の実現を加速させることにつながるだろう」との見解を示す。HPのレポートでは、85%が新たなデジタルマニュファクチャリング技術を採用するためには「業界を越えた連携が重要である」と回答している。
また、企業における3Dプリンティング/アディティブマニュファクチャリングの活用を阻害する最大の要因として「専門スキルを持つ従業員の確保」が挙げられるという。
HPのルミエール氏は「テクノロジーというのは問題解決のために使うものである。例えば、生産スピード、コスト、品質などだ。だが、テクノロジーを使いこなすことができなければ、そのポテンシャルを十分に引き出すことはできない。そこで、HPは強力なエコシステムを構築したいと考えている」と述べ、シンガポールで立ち上げた産学官連携によるラボ「HP-NTU・デジタル・マニュファクチャリング・ラボ」におけるエコシステム、コラボレーション、教育の取り組みを紹介した。
HPのレポートでは、スキル不足への対処について、回答者の64%が「より専門的な研修サービスを受けたい」と答えており、53%が「企業、政府、各種機関、市民が一体となって、教育および職業技能のプログラムに投資してほしい」と回答している。
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