新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行に伴い、重症患者の治療に必要とされる人工呼吸器、さらには診察・治療のための検査キットや医療用マスク、防護具などが不足している。こうした状況を受け、今積極的に支援活動を展開し、その輪を広げようと、さまざまな施策を打ち出しているのが3Dプリンタメーカーだ。
世界中で広がる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大。その波は、中国から欧州、米国へと広がりを見せ、日本国内においても「緊急事態宣言」が発令されるまでに至った。各国・地域における封じ込め対策やローラー作戦、外出自粛要請などにより、感染者数の増加を鈍化させる取り組みが行われているが、最前線の医療現場では、病床数の不足、医療従事者への大きな負担や感染リスク、医療機器や医療品不足など、医療崩壊の危機に直面しているケースも見られる。
特に重症患者の治療に必要とされる人工呼吸器、さらには診察・治療のための検査キットや医療用マスク、防護具などが世界的に不足しているという。こうした状況を受け、今積極的に支援活動を展開し、その輪を広げようと、さまざまな施策を打ち出しているのが3Dプリンタメーカーだ。
MONOist編集部では、3Dプリンタメーカー各社に緊急アンケートを実施し、支援内容や成果(実績)、そして、こうした危機的状況における3Dプリンタの提供価値について調査を行った。以降、この結果を踏まえながら、今、世界でどのような取り組みが進んでいるのか、COVID-19対策として3Dプリンタがどのような貢献をしているのかを紹介する。
なお、今回のアンケート調査に協力してくれたのは、Formlabs、JSR(Carbon事業推進部)、日本HP(以下、HP)、スリーディー・システムズ・ジャパン(以下、3Dシステムズ)、ストラタシス・ジャパン(以下、ストラタシス)だ[回答の返信順]。
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まずは、臨床評価や医療現場への実導入が進んでいる、各社の“海外”での取り組みについて見ていこう。
MONOistでもいくつかの取り組みをニュース記事として取り上げているが、既に3Dプリンタを用いた製造(臨床評価段階含む)が始まっているのが、ウイルス検査用のスワブ(綿棒状の検体採取キット)、フェイスシールド、マスク、人工呼吸器用の部品などだ。
例えば、Formlabsでは検査用スワブや人工呼吸器用のスプリッタ(人工呼吸器1台を複数人でシェアするための分配器)などの製造に向けて、医療機関と連携しながらプロトタイピングや臨床評価を進めている。検査用スワブに関しては、USF Health、Northwell Health、Tamp General HospitalとFormlabsが連携。「Formlabsが保有するFDA(米国食品医薬品局)認可施設で250台の3Dプリンタ(Form 2/Form 3)を稼働させ、医療向け専用レジン(Surgical Guide)を用いて毎日15万本の検査用スワブをプリントしている」(Formlabs マーケティング部 部長の新井原慶一郎氏)。
また、Formlabsは複数の病院関係者やボランティアなどと連携し、フェイスシールドの調整ストラップ、スキューバ用フルフェイスマスクを呼吸器に適合させるための変換アダプター、N95対応の呼吸器とマスクなどの設計、試作も進められているという。
一方、「HP Jet Fusion 5200」を中心とする産業用ハイエンド3Dプリンタで支援を行っているのがHPだ。同社がグローバルで展開するデジタルマニュファクチャリングネットワークの認定パートナーらと協業しながら取り組みを開始。既に検証が完了し、最終製品化したものとして、検査用スワブ、フェイスマスク、フェイスシールド、マスクアジャスタ、ハンズフリードアオープナー、人工呼吸器用部品などが挙げられるという。「4月3日現在で、2万5000点以上の医療関連部品などが3Dプリンタで製造され、各地域の医療機関などに届けられている。また、フィールド人工呼吸器やFFP3等級のフェイスマスクなども検証段階にあり、間もなく製造を開始できる状況にある」(日本HP 3Dプリンティング事業部 カントリーマネージャー 秋山仁氏)。
3Dプリンタ大手の3Dシステムズは、COVID-19対策に関する約50ものプロジェクトに携わっており、医療機関や医療機器メーカーに対して、エンジニアリングやプリントサポートといった支援を開始。また、同社のネットワークを生かし、パートナー企業やNGO(非政府組織)、医療機関などと連携して、試作開発や大量生産のリクエストに応え、人工呼吸器用部品やフェイスマスクなどの医療機器部品、防護具などの製造支援も行っている。3Dシステムズは、FDAおよびその他の規制機関からのガイダンスに準拠しているとし、主に粉末焼結積層造形(SLS)方式のハイエンド3Dプリンタと光造形方式の「Figure4」、関連材料を使用して対応しているという。
「イタリアの医療施設に対し、わずか1週間で700以上の医療用部品などを提供した実績がある。また、スキューバ用マスクを人工呼吸器に変換するために必要となる使い捨てバルブに関しては、要請を受けてから8時間で、新規設計、3Dプリント(30個)、パッケージ化まで行い、病院に届けることができた。機材は『ProX 6100』を使用し、メディカルグレードのナイロン材料で造形した」(3D Systems SVP,PlasticsのMenno Ellis氏)
同じく3Dプリンタ大手のストラタシスも、医療用フェイスシールドの製造支援に早くから取り組んでいる。「香港理工大学がStratasys製のFDM(熱溶解積層)方式3Dプリンタを用いて医療用フェイスシールドを造形したのを皮切りに、スペインやイスラエルなどでも同様の取り組みが広がっている。また、米国のStratasys Direct Manufacturing(SDM)では、医療用フェイスシールドの受注も開始している」(ストラタシス担当者)という。
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