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» 2020年10月13日 06時00分 公開

ガソリンエンジンからADASへ、マツダのモデルベース開発の広がりAnsys INNOVATION CONFERENCE 2020(2/2 ページ)

[一之瀬 隼,MONOist]
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増加するECUに、シミュレーション活用で対応

 現在車両に搭載されている電子制御システムやECUは、クルマ全体で数十個、高級車では200個を超えるといわれている。さらにそれぞれのECUに書き込まれるソフトウェアの規模も増大している。マツダが開発しているエンジン制御のソフトウェア規模は、過去10年で10倍、20年で100倍と指数関数的に増えてきた。そのため、SKYACTIVエンジンの開発にはモデルベース開発の導入が不可欠だった。

 ガソリンエンジン「SKYACTIVE-G」の開発では、EV相当の燃費を実現するためにエンジンの熱効率を改善する必要があった。そこで、効率を悪化させる損失を明確にし、どの因子をどう制御すれば損失を低減できるのかを検討した。従来の開発であれば、燃焼という化学反応の影響を確認するために、実機を用いた検証が必要不可欠だったため、実際のエンジンを試作し、ECUを開発することで作り込みを行っていた。

 SKYACTIVエンジンでモデルベース開発を進めるに当たっては、エンジンやトランスミッションなどの制御対象をモデル化したプラントモデルと、ECUに実装されるアプリケーションの全機能をモデル化したコントローラーモデルを構築。プラントモデルの中でも物理式で表現できる部分は物理モデルとし、燃焼など数式では表現が困難な現象は実機データを基にモデルを構築した。コントローラーモデルはブロック線図や状態遷移図を記述している。

 モデルベース開発は、どの部分にモデルを使用するかによって下記のように種類が分かれ、開発タイミングや用途に応じてこれらを使い分けることで、開発効率を高められる。

  • MILS(Model In the Loop Simulation):制御対象物もECUもソフトウェアも全てシミュレーションモデルで構成
  • SILS(Software In the Loop Simulation):MILSに対して、実際のソフトウェアを組み込んだ構成
  • CILS(Component In the Loop Simulation):SILSに対して、制御対象物も実機を用いる
  • HILS(Hardware In the Loop Simulation):SILSに対して、ソフトウェアだけでなくECUも実機を使う

 SKYACTIVエンジンの設計段階においてMILSを、実機検証段階においてはHILSを導入したが、それぞれ別のモデルを製作すると開発工数が増加する。そこで、入出力の部分を差し替えれば開発段階に依らず使用できるようなモデル構成としたことで開発工数の増大を防いだ。HILSモデルは、検証をする際の粒度や他のシステムとの連携において確認したい内容に合わせて、エンジンHILS、パワートレイン統合HILS、電気系HILSと構成している。

 これらのHILSを構築することで、従来は、実機開発でなければ分からなかった課題を早期につぶし込むことができ、実機開発移行後のトラブルが激減した。また、開発の早い段階から他システムの技術者とすり合わせができることで新しいアイデアが生まれるなど、副次的な効果もあった。

 モデルベースを導入することでSKYACTIVE-Gの開発は狙い通り、効率的に高品質な開発ができた。また、エンジン制御を応用したG-VECTORING CONTROLやクルーズコントロールといった新技術の開発もモデルベース開発の導入によって実現できた。さらに、SKYACTIVE-Gの開発を限られた人員で効率よく行えたことで、その後に続くパワートレインである「SKYACTIVE-X」の開発に向けたリソースを確保できた点も、大きな成果だとしている。

モデルベース開発の成果はADASにも

 SKYACTIVE-Gの開発で培ったモデルベース開発の知識や経験は、ADAS(先進運転支援システム)にも適用した。ADASの制御をモデルで記述し、それを開発段階に応じてMILSやカメラと連携したHILSなどで検証することで、開発が効率よく進められるようになった。今後は、ソフトウェア設計の前段階でモデルベース開発の恩恵を受けられていないシステム設計段階を、どのように開発していくのかが課題だという。

 今後も、コネクテッドサービスやシェアリング、自動運転車の普及により、車両開発の規模と難易度は上がっていく。末冨氏は「開発手法をさらに変えていかなければ、限界が来るかもしれない」という危機感も見せた。今後増大していく開発規模に対応していくためには、モデルベース開発の環境を改善し、それを使いこなしていく必要がある。上流工程で、モデルを用いて正しさをしっかり検証するとともに、既存のソフトに付加機能をきちんと整合させるなどできるだけ上流の工程で着実な作り込みを実施し、さらにプロセス間で整合性を保てるような環境を構築していくことをマツダでは目指している。また、構築したモデルの振る舞いを検証する際に要件を逸脱するような条件をツールが探索したり、また逸脱しないことを検証できるような状態にしていくことも目標としている。

著者プロフィール

一之瀬 隼

現役の製造業エンジニアとして働きながら、製造業ライターとして活動。経営視点を持ったエンジニアになるべく、経営関係の国家資格取得を目指して勉強中。

ブログ「悠U自適」

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