ガソリンエンジンからADASへ、マツダのモデルベース開発の広がりAnsys INNOVATION CONFERENCE 2020(1/2 ページ)

アンシス・ジャパンは2020年9月9〜11日の3日間、オンラインイベント「Ansys INNOVATION CONFERENCE 2020」を開催。初日(同年9月9日)の「Automotive Day」の事例講演では、マツダ 統合制御システム開発本部 首席研究員の末冨隆雅氏が「自動車制御システムのモデルベース開発」をテーマに、同社のSKYACTIV技術の開発に貢献したモデルベース開発の取り組み事例を紹介した。

» 2020年10月13日 06時00分 公開
[一之瀬 隼MONOist]

 アンシス・ジャパンは2020年9月9〜11日の3日間、オンラインイベント「Ansys INNOVATION CONFERENCE 2020」を開催。初日(同年9月9日)の「Automotive Day」の事例講演では、マツダ 統合制御システム開発本部 首席研究員の末冨隆雅氏が「自動車制御システムのモデルベース開発」をテーマに、同社のSKYACTIV技術の開発に貢献したモデルベース開発の取り組み事例を紹介した。

膨大な開発工数を限られた人数でこなす

 マツダがモデルベース開発の導入に至った背景には、「巨大化・複雑化する車両開発の規模」と「少ない人員での目標達成」といった、100年に一度の大変革期と呼ばれる自動車業界の変化が影響しているという。ここ数年で、自動車にはさまざまな要求が課されており、安全で快適に移動できる自動運転や運転支援、環境対策としての燃費改善、メーカーの個性を打ち出したデザイン、快適さと楽しさを両立した乗り心地など多岐にわたる。

 これらの要求を並行して実現していくためには膨大な開発工数が必要になる。一方で、専門知識を持った開発人員を急激に増加させることは難しく、限られた人材でこれらの開発を進めていく必要がある。特にSKYACTIV技術の開発では、「ガソリンエンジンでありながらハイブリッド車(HEV)並みの燃費」「車両とパワートレインを一気に刷新」といった、難易度が高く多大な工数が必要な開発に少ない人員で取り組まなければならなかった。

 そこで、マツダではブレークスルーの手段としてモデルベース開発を導入した。高い機能のユニットを同じ体質でそろえる「コモンアーキテクチャ」の実現や、車両システム全体での品質確保、性能の最適化においてモデルを活用している。

机上での設計通りにつくり、狙い通りに動かす

 自動車のECU(電子制御ユニット)の開発は、システム設計、ソフトウェア設計、プログラム生成、ソフトウェア検証、適合・評価というプロセスで進む。各段階で狙い通りの設計になっているかを確認しながら進めるが、実際にECUの動きを確認できるのは適合・評価の段階であり、フィードバックできるまでに時間がかかってしまう。また、ソフトウェアとハードウェアの開発期間に時間差があり、試作に時間がかかることが多いハードウェアの完成を待たなければ、ソフトウェアの開発を進められないという課題もあった。

 モデルベース開発では、システム設計をモデルを用いて実施することで、ハードウェアの開発を待たずに動きを確認できる。また、作成したモデルから自動でコード生成できるため、コーディングに必要だった工数も大幅に削減することが可能だ。

 マツダはモデルベース開発で目指す姿を、「さまざまな部品を組み合わせて机上での設計通りに実機を作り上げ、1発で狙い通りの動きになること」としている。この姿を実現するためには、モデルの段階から関係する部品の動きをすり合わせていく必要がある。ただ、マツダ単独でこの目指す姿を実現することは難しく、末冨氏は「自動車メーカーと部品を供給する部品メーカーが協力することで初めて実現できる」と訴える。各部品の詳細な動き方や特性は部品メーカーと協力して確認する必要があるためだ。部品メーカーにとっても、モデルの活用に取り組むことは開発効率化や試作回数の低減などが図れ、メリットが大きい。

 また、机上での設計通りに実機を作り上げるためには、生産部門との連携が必要不可欠だ。机上段階でシミュレーションを繰り返し実施し、ブラッシュアップした内容を基に、生産工程を調整してもらう必要がある。このように社内外の関係者と協力することで、開発力を磨きながら高機能で複雑な車両システムを短期間で効率よく開発するために、モデルベース開発を活用している。

自動車の制御システム開発の課題

 クルマに求められるニーズが高度化、多様化していくことで、クルマの電子制御は複雑化の一途(いっと)をたどっている。車外との通信対応など今後もその傾向は加速する。自動車の制御システム開発における課題は大きく分けて3点ある。1つは開発工数だ。クルマを構成する多くの部品に高度な制御が求められることで開発工数が急増しており、システム同士の組み合わせが増えるとインタフェースとなる部分の開発も必要となる。

 2つ目は品質の確保だ。求められるニーズが高度化することで開発する機能が複雑になり、全ての組み合わせを実機で評価することは困難である。確認不足だった場合には品質問題が増加し、原因究明や問題解決に時間がかかることで経営の悪化につながる懸念もある。

 3つ目はコストだ。クルマに求められるニーズの変化や機能の増大により、車両に搭載されるECUが激増している。それぞれのECUが持つ機能を整理し、統合することでECUの数を減らそうとしても、統合できる機能を可視化することは難しい。必要な機能がムダやモレなく搭載できているのか分からず、クルマ全体としてのコスト管理が困難になっている。これらの課題を解決する上でも、モデルベース開発が大きな役割を担うという。

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