これらの前提を踏まえた上で、ようやく製造業向けDXの具体的な内容について考えることができます。今回は、DX戦略の項目として以下の3つの戦略について概要を示します。詳細な内容については次回以降でお伝えしていくつもりです。
B2Cの世界では、GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)に代表される米国のインターネット企業によるプラットフォーム戦略が浸透しており、顧客囲い込みでは最も効果的な方法として定着しています。では、B2Bの代表例ともいえる製造業にとって、プラットフォーム戦略にはどんな魅力があるのでしょうか。
一言でいえば、プラットフォームを活用した「エコシステム」の構築だといえます。個別のシステムをシステムインテグレーションにより連結するのではなく、同一プラットフォーム上にある複数ベンダーが提供するシステムを、自由に選択し運用できるようにするのがエコシステムの考え方です。複数モジュールで構成されるERPの拡大版をイメージすると理解しやすいかもしれません。こうした「エコシステム」の構築をどう実現するのかということがDXにおける1つのポイントであり、戦略として練らなければならない領域になります。
これもプラットフォーム戦略と同様、B2Cアプリケーションの世界では定着しているものだといえます。映像配信サービスやゲームをはじめ「サービスモデル」「サブスクリプションモデル」が一般的な課金システムとして確立しています。B2Bでは、会計システムや顧客管理システムなど一部を除いて、従来の「オンプレミスモデル(ソフトウェア使用許諾権購入)」が大半です。これは、現時点ではクラウドアプリケーションの選択肢が限られている現実があるからだといえます。
しかし、今後多くの業務アプリケーションがクラウドにより提供されるようになれば、こうした状況も変化してくることが予測できます。業務アプリケーションでも「サービスモデル」が主流になる日が来るのは間違いなく、これらをどう活用するのかを考えておく必要があります。
製造業にとって従来のデジタル技術を活用する仕組みのほとんどは、工場内の業務を管理対象とし、工場内の見える化を図るものでした。しかし、実際の製造活動では、顧客との受注の変化点管理、仕入れ先との購買の変化点管理、また、外注管理といった外部コミュニティーとの「つながり」を無視して業務を進めることはできません。一部の大手製造会社を除けば、外部コミュニティーとの連携は現在はメールや電話、FAXなどによる属人的な運用が行われているケースが大半です。これらは間違いなく「改善しなければならないポイント」だといえます。従来の部門や会社ごとのシステムの役割を、包含的に考え属人的に無理にシステム連携させることで生じていた無駄を減らすための新たな仕組み作りに取り組む必要があると考えます。
今回はまず製造業がDX戦略を考える上で必要になる前提と、3つの戦略の概要について紹介しました。次回は、まず3つの戦略の内「プラットフォーム戦略」についてより詳しく紹介していきます。欧米の大手パッケージベンダーは一様にプラットフォーマーを目指しています。また、B2C向けプラットフォーマーのB2B向けサービス提供も始まっています。業務アプリケーションの世界も、今までの様な製品間の競合ではなく、まずはプラットフォーム間の競合があり、その先にプラットフォーム内製品の競合と言う2段階の競合機会が生まれるかもしれません。こうした状況を紹介していくつもりです。
栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役
【経歴】
1995年 マレーシア・クアラルンプールにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。その後、タイ・バンコク、日本・東京、中国・天津、上海に現地法人を設立。製造業向けERP「ProductionMaster」と、MES「InventoryMaster」の開発と販売を行う。
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asiaを設立。
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却し、パナソニックFSインテグレーションシステムズの代表取締役に就任。
2020年 クラウドERPのリーディングカンパニーRootstockの日本法人であるRootstock Japan株式会社の代表取締役就任。
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