「スマート・シングスのジレンマ」では、さまざまなスマートプロダクトが市場投入される中で浮かび上がってきた「永遠にβ版」という課題を指摘した。スマートプロダクトは柔軟であるがゆえに常にアップデートが可能であり、それが故に決して製品として完成しない。そしてアップデートを継続することが、企業の足かせにもなりつつある。
例えば、アップル(Apple)はOSアップデートによる「iPhone」の性能低下が訴訟問題に発展し、グーグルもスマートホームデバイスの管理アプリの統廃合にユーザーが反発し、統合によるアプリの廃止を撤回するという事態に陥った。ハードウェアのスペックがアップデートに追い付かない、サービスのアップデートが顧客の期待に合わないことでこのような結果になってしまったわけだ。
これら「永遠にβ版」という課題の解決には「顧客体験に近いデータの継続的な取得と活用が鍵になる」(山根氏)という。アイロボット(iRobot)は、ロボット掃除機をサブスクリプションサービスで提供することで、掃除品質への懸念や初期導入費用の高さを克服しようとしている。また、データに関するプライバシー保護も重要な観点で、エッジデバイス側での処理によるプライバシーコントロールや、ブロックチェーンを用いた創薬研究コンソーシアムなどの事例がある。
「解き放たれるロボット」では、さまざまな場所でロボットの活用が進みつつあることを紹介した。例えば、ANAやエアロセンス、国立国際医療研究センターが、ザンビア共和国でドローンによる血液検体の空輸を行ったり、東京工業大学などの研究グループが「DNAオリガミ」と呼ぶナノスケールのロボットを開発したりといった事例がある。
今後は、エコシステムの形成によって、さらにロボットが解き放たれていくことになりそうだ。トヨタ自動車のスマートシティープロジェクト「Woven City」や、羽田空港の「Haneda Robotics Lab」などは、多種多様なプレーヤーを巻き込むことで、より大きなエコシステムを形成しようとしている。また、ロボットの進化には継続的なテストと交信が必要だが、そのためにはテック・クラッシュの話で挙げたトラストが重要な要素になる。「人間からロボットへ、企業内、企業間、人間と企業の間といった形でトラストが存在すれば、ロボットのさらなる活躍が可能になるだろう」(山根氏)。
「イノベーションのDNA」では、ポスト・デジタル時代において、テクノロジーを使いこなすだけでは不十分で、サイエンスとテクノロジーを企業のDNAに組み込み不可分なものにしていく必要があるとした。特に、重視しているのが「DARQ」と呼ぶ、分散型台帳技術(DLT)、AI、拡張現実(XR)、量子コンピューティング(Quantum Computing)の4つの技術に早い段階からリーチしておくことである。
そして、「イノベーションのDNA」を担うのが先述したテクノロジーCEOである。山根氏は「まず、テクノロジー企業とは、ビジネスの核にテクロジーが融合している企業のことだ。そしてテクノロジーCEOとは、単に先端技術に詳しいCEOではなく、テクノロジーを企業の核に融合させて考える、テクノロジー思考を持つCEOである」と説明する。
なお、これら5つのテクノロジートレンドは、COVID-19の影響によって短期的に加速し、長期的視点にも大きな影響を与えることも指摘している。
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