名古屋大学は、タンパク質を高効率で合成するmRNAを開発した。mRNAのリン酸部位の酸素原子を硫黄原子に置換することで、タンパク質の合成能が約20倍向上した。
名古屋大学は2020年7月7日、タンパク質を高効率で合成する人工メッセンジャーRNA(mRNA)を開発したと発表した。mRNAのリン酸部位の酸素原子を硫黄原子に置換することで、タンパク質の合成能が約20倍向上した。本成果は、同大学大学院理学研究科 教授の阿部洋氏らの研究グループによるものだ。
生体内では、DNAを鋳型にmRNAが転写され、そのmRNAを鋳型としてタンパク質が合成される。タンパク質を安定に合成するために化学修飾した非天然型核酸をmRNAに導入するが、その1つにホスホロチオエート(PS)修飾がある。
本研究では、α位のリンに結合する酸素原子が硫黄に置換されたリボヌクレオチド5’-(α-P-チオ)三リン酸を用いて、PS修飾を導入した人工mRNAを16種類合成した。
無細胞タンパク質合成系で翻訳反応を解析したところ、PS修飾mRNAは天然型mRNAに比べて高効率でタンパク質を合成した。ホタルルシフェラーゼ発光タンパク質や蛍光タンパク質をコードしたmRNAに対して、各塩基のリン酸基にPS修飾を導入したところ、いずれの場合も天然型mRNAよりも2〜12倍という高い翻訳効率を示した。
次に、翻訳反応は開始段階が律速段階と考えられているため、翻訳反応の初速度を測定した。その結果、PS修飾mRNAは天然型mRNAに比べて、翻訳開始速度が約2倍向上していることが明らかとなった。
さらに、高効率でタンパク質を合成するmRNA開発のため、配列特異的にPS修飾を導入したさまざまなmRNAを合成して解析。翻訳開始に関わる領域である5’末端から開始コドン付近までの非翻訳領域をPS修飾した5’-PS-mRNAで、最大で約22倍の翻訳効率を示した。
これらの結果から、PS修飾mRNAが翻訳反応の律速段階を速めることで、高効率でタンパク質を合成できることを示した。今後、新たなタンパク質の大量生産技術やmRNA医薬品への利用が期待される。
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