忘れてならないことがある。COVID-19の感染拡大は同時期にグローバルで起こったのではなく、地域によりかなり時間差があったという点だ。最初は中国で発生したが、現在では北京で一部発症があるものの全体的には収まっている。一方、米国では第2波の到来が大きな社会問題となっている。そして、落ち着いてきた国や企業は、これをチャンスと捉え、より業態の拡大を図ろうとするのではないだろうか。
特に、収束が早かった中国は要注意である。もし筆者が中国大手自動車メーカーの戦略を考える立場にある場合、どのような戦略を取るのか仮説として考えてみた。
COVID-19で疲弊している自動車メーカーは多い。そうであれば、中国自動車メーカーから見て、日本やドイツなどで技術力のある自動車メーカーはM&Aの対象として浮かび上がる。中国では、EVバスやEVトラックも今後飛躍的に伸びる可能性があり、グループ企業として日系の商用車メーカーなどを迎え入れたいと思うだろう。もちろん、一般の自動車メーカーに対しては、技術提携から資本提携などの方策を取ることも考えられる。
中国自動車メーカーの最大の弱点は、クルマの基盤技術にあると思われる。その証左として、中国国内では販売可能であるが、ワールドワイドで展開できる車両は極めて少ない。衝突安全性も含めたプラットフォーム構想、自動運転車に必要な構造など、多くの基盤技術を高めるチャンスを狙っている。そのための方策として、中国国内への大規模なR&Dセンターの誘致、中国自動車メーカーが日独の自動車メーカーと合弁でR&Dセンターを設立するなどが想定される。
中国では、新エネルギー車をターゲットに大手やベンチャーで多くの企業が乱立しているが、要素技術の実力は必ずしも高くない。モーターやインバータ、さらにその要素となる電子部品など、多くを海外部品メーカーに頼っている。自動運転に必要なカメラ、センサー類なども同様である。先般、オリンパスがカメラ事業を手放すことで話題となったが、中国の自動車関連企業が日独などで要素技術の高い部品メーカーに対してM&Aを持ち掛けることも考えられる。
なお、こうした仮説を考えるにあたって、真っ先に思い浮かんだのが、孫子の「孫子兵法」であり、よく引き合いに出される名言として「兵とは詭道なり」がある。つまり、軍事では相手を欺いたり、意表を突いたり、相手の裏をかくことこそ戦略だと説く。
これらの仮説を中国の自動車関連企業が実行しようとする場合、このような視点から具体策を立案するのではないだろうか。今回、日系企業はどちらかといえば受け身の立場であると想定したが、必ずしも悲観的になる必要はない。戦いの本質が虚実の駆け引きであるならば、弱者が強者に勝てる戦いに持ち込むことも、この戦略で対応できると孫子は説く。
COVID-19対応のために、自動車産業は課題が山積しており、目の前の問題点の解決に注目しがちである。今回は中国を仮説として考えたが、感染症がまん延していたとしても、世界の自動車戦争は止まることはない。逆にこれをチャンスと捉え、今までとは違った視点を持ち、動き始めているところもあろう。日本の自動車産業のマネジメント層も、対応策を練り直す必要があるように思えてならない。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.