営業部門からの受注伝票を受付後に、製造部門(製作課)に製作指示を行う場合、加工完成日(工完日)を技術部門もしくは生産管理部門で指定します。この加工完成日を決定することを生産大日程計画といいます。ここでは一般的に行われる大日程計画の立案方法について説明します。
まず、受注量に対して、各部門別、指定工完日別に負荷の積み上げ(山積)を行います。山積の対象としては、受注金額、ロット数、製作台数などで行います。また積み上げ単位としては、担当製作部門(課または係)別、機種別などが考えられます。
山積初期においては、算式中の加工所要日数と標準工完日数については、あらかじめ以下のように設定しておきます。
山が積まれた状態では、次のような方法で工完日を指定していきます。例えば、A製品の現在時点(令和2年7月1日)における山積の状態が図7のようになっていたとします。
令和2年(R2)10月分が10千万円、つまり1カ月の生産能力を40千万円とすると、生産能力の4分の1、日数換算で5日分は既に一杯です。残業計画の見直し、休日出勤、協力会社への展開などの処置をしない限り、次に来る受注分は、今から3カ月と5日先以降、つまりR2・10月8日以降となります。
従って、A製品の現時点における受付分の工完日は、例えば、標準加工日数が5日とすると、R22・10月13日ということになります。工完日の刻み方を半日単位もしくは1日単位にするか、5日単位にするかによっても違ってきます。ただし、特急指定製品または短納期品については、特別に定められた日程で設定することになります。
大日程計画業務に活用できるスケジューリングソフトはいろいろありますが、一般的には、パート手法(PERT手法;Program Evaluation and Review Technique)の考え方で作成されたスケジューリングが多用されています。どのような手法を採用するにしても、基礎知識として学習しておくことをお勧めします。
ここでPERT(一般的には“PERT”と表現します)について簡単に説明しておきます。PERTは、ネットワーク手法を用いて日程管理を行おうとするもので、複雑にからみ合う仕事の流れと相互関係をネットワークとして表す、さまざまなプロジエクトの日程管理手法として開発されましたが、やがて民間にも広まり多く用いられるようになりました。矢線(アクティビティー:作業)と、丸印または四角(イベント:作業の区切り)とでネットワークを表すために、このネットワークをアローダイヤグラムとも呼びます。
PERTでは、アクティビティーごとに所要時間を記入することで最早時間と最遅時間を求めることが可能であり、最遅時間の経路をクリティカルパスと呼んで重点管理を行います。また、PERTは、仕事の手順を明確にし、仕事の問題点を総合的に明らかにして、実行可能案を検討する際に適した手法でもあります。
図8の例に示したネットワーク図の作成が終了したら、全体の製作期間に影響する最も期間の長い仕事の流れを見つけ出します。この最も所要時間が長くかかる仕事の流れをクリティカルパスといいます。このクリティカルパスにおける仕事を短縮できれば、工程長(リードタイム)を短縮することが可能となります。
図8を例としてクリティカルパスの見つけ方を説明します。この例では、仕事の流れを3つに分けることができます。
図8の例における所要期間は、(パス1)の仕事の流れが最も長いことが分かりました。この(パス1)の線上における仕事の所要時間を短縮すれば、全体の工程長を短縮できます。従って、(パス1)の線上にない仕事の所要時間をいくら改善して工程長を短縮しても、全体の工程長の短縮にはつながりません。例えば、“仕事E”の18日を15日に短縮しても、全体の工程長(41日)を短縮することはできません。このように、クリティカルパス上の仕事を重点的に改善することで、全体の工程長を短縮できるのです。
全体の進度管理を行う場合でも、このクリティカルパスは重要です。事例の“仕事F”が3日遅れて6日かかっても全体の期間には影響しません。しかし、“仕事C”が3日遅れると全体の期間は3日遅れることになります。このようにクリティカルパスを管理することが、全体を計画通り進めるためのキーポイントとなります。また、この考え方は、工程管理者にとって重要な要素となります。
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これから新たに「工程管理」を運用しようとする企業は、多くの場合、生産管理の経験者を新規採用して始めようとします。このような「隣の会社もやっているので、わが社もやろう」などという生半可な気持ちで実施しようとしてもうまくいくはずがありません。むしろ、利益を圧迫してしまう結果を招いてしまう危険さえあります。生産管理が必要であることは誰しも認めながら、その必要な理由を明確に把握できていないというのが実情ではないでしょうか。
企業は、継続的に利益を確保していかなければなりません。工程管理を実施するために在籍人員を増やして利益を圧迫してしまっては意味がないのです。現場で何が起きていて、その解決のために工程管理を導入する、あるいはその精度を上げて、より高い水準の工程管理の実施によって、さらなる利益を生み出す、という目的が明確にされていなければなりません。一般的には、担当者の新規採用の人件費を含めて20〜30%の生産性向上を目指して計画されなければ、経営者は投資してくれません。目的は、生産性向上です。工程管理は、その達成のための手段であることを十分に理解して進めていってほしいと思います。
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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